その言葉に、寛子は切なげに眉をひそめた。そして、多香子を見上げる。
--------何をして、あげられる?ありきたりの言葉--------例えば「大丈夫だよ」とか「好きだよ」とかそういうい類の言葉なのだが-------だって言えるけれど、それは何か違っている気がしてならなかった。
寛子は多香子の頬をなぜる。柔らかく包み込む。そして、額をこつんとくっつけた。
「あたしだって………怖いよ」
色々な意味で。
「寛………?」
「だって………あたしだって、初めてだもん。こんなに好きで………だけど………ううん、だから、怖いよ」
全てを見せ合う事だと思うから。綺麗な自分も汚い自分も全部、全部。
「--------寛子、も?」
そう、思ってる?自分を見せるのが、怖いって?
その問いに、寛子は瞳を細めた。そして、頷く。
「怖いよ………多香ちゃんが、凄く凄く大切だから」
大切だから、怖い。
その言葉に、多香子は心の何かがぽろりと落ちていった気がした。寛子は多香子の指先をそっと掴むと、自分の口元に引き寄せる。
「どんなあたしでも、好きでいてくれる?」
その言葉に、多香子は小さく頷いた。それに、寛子は安堵したように息をつく。
「寛子は………どんなあたしでも、好き?」
同じように、多香子は問うた。寛子は、それに唇を奪うことで答える。
「ずるいよ………」
ちゃんと、言葉にしてくれなくちゃ。
拗ねたような多香子の視線に、寛子は微苦笑すると、
「好きだよ………」
小さく、だけどしっかりと答えた。
「ん………」
唇が鎖骨をなぞり、そのまま胸元に落ちてくる。
「--------ドキドキしてる」
耳を素肌に当て、寛子は囁く。さらさらの髪がくすぐったくって、多香子は思わず身を捩る。
「くすぐったいよ」
「あ………ごめん」
身を起こすと、こちらを見上げる多香子の視線と視線がぶつかる。思わず微笑み合う。--------さっきとは違った穏やかな雰囲気。
「………怖かったらさ」
「うん?」
前髪ごしに口づけると、寛子はそのまま首筋に熱いキスを落とした。
「名前………呼んでよ」
「え?」
「--------何度でも、いいから。あたし、ちゃんと、答えるから」
だから、不安をきちんと声にして。自分の中に押し込めていないで。
「寛………子………」
判ってくれる人がいる。理解しようとしてくれてる人がいる。それが、こんなにも切なくなるモノだと、教えてくれた。寛子が。
「多香………」
「好き、だよ」
その言葉に、寛子は苦しげにかぶりを振った。そして、細く細く息をつく。
そんな瞳で、そんな声で………囁かないで欲しい。--------どうにか、なる。
多香子は指を伸ばし、そっと寛子の頬を撫でた。それが、寛子の心のスイッチを入れる。
「あたしも………大好きだよ」
切なげに叫ぶと、寛子はがむしゃらに多香子をかき抱いたのだった。