Solitude


「あ、こっちにも宿あるみたいよ?」
 エリの言葉に、ふと視線を向ける。細い路地。しかし、掲げられてるのは『ちゃんとした』ホテルの看板だった。
「————空いてるかなぁ」
「空いてればいいねぇ」
 ヒロとヒトエが口々に呟くのを、タカはただ小首を傾げて眺めている。そんな3人を放って置いて、エリは急ぎ足でそこに向かうと、古びて質素だけれども、きちんと手入れされたドアを開いた。
「————いらっしゃいませ」
 フロントには老婆が1人。静かに歩み寄ると、エリは礼儀正しく問うた。
「………4人なんですけれども、空き部屋はあるでしょうか?」
 老婆はエリを値踏みするような瞳を向けた。そして、追いついた一行に視線を向けると、『ふむ』と頷く。
「あなた達は、カーニバル目当てでこの街に来たのですか?」
「………いえ。知らずに来ました。ですから、困っているんです」
 ああ、エリってこういう風にちゃんと話せるんだ。
 普段は子供って言えば子供なので、こうしてフォーマルな感じで話す姿はなかなかお目にかかれない。
 ヒトエ達がそう思ったのは、言うまでもない。
「そうですか」
 老婆はふわりと目を細めると、台帳をぱらりと開いた。そして、指で何かを辿る。
「4名様ですね」
「はい」
「4名様、一部屋になりますけれども、それでよろしいでしょうか?」
 一瞬、言われた事が解らなかったが、エリは直ぐに頷き返す。
「結構です」
 そう告げてから、くるりと振り返ると『やったね!』という感じで親指を立てたのだった。


「————真面目に喋ろうと思えばしゃべれるんじゃん」
 荷物を置いて、ちょっとだけ休んで。先に街へと繰り出したのはエリとヒトエ………ついでに、リナであった。
 リナの言葉に、エリはかなり不機嫌な表情になる。
「失礼なヤツ………」
 これでも一応賢者なんですから!
 『えっへん!』と胸を張るエリの頭を、ひとつどつくと、ヒトエはしみじみと告げた。
「ちょーしに乗るな」
「………痛い」
「リナもだよ?解った?」
「へーい」
 気のなさそうに応えるリナの耳に、どこからか歌声が届いた。
「………………へぇ」
 良く通る、力強い声。思わず、エリとヒトエも足を止める。
「………どっからだろ?」
「あっち?」
 立ち止まり、声の方向を判断している2人に視線を向けながら、リナはその歌声を聴く。
————不意に、曲が変わり、スローテンポなバラードに変わる。
 どくり!
「え?」
 ヒトエは、いきなり脈打った鼓動に、戸惑う。次にヒトエを襲ったのは、『胸の痛み』だった。………切ない程の。
「ヒトエ………ちゃん?」
 不意に動きを止めたヒトエに、エリは小首を傾げる。しかし、ヒトエも、理由が解らない。
「————何?一体………」
 操られる様に、身体が勝手に動き出した。歩くのももどかしいのか、早足から駆け足になる。
「え?えええ???」
「ヒトエちゃん!」
 いきなり走り出したヒトエを、怪訝に思いながらも、エリはその後を追ったのだった。


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