Solitude


「ちょ………ちょっと」
 ヒトエは思わず声をあげる。だけども、身体は止まらない。
「ヒトエちゃん!」
 瞬発力はあるが、持久力がないヒトエに、エリは追いつくとその手を掴んだ。しかし、力任せに振り解かれる。
「ヒトエちゃん?」
「あ………あたしじゃないよぉ」
 ふるふると首を振りながら、それでも足は止まらない。思わずヒトエは心で叫んだ。
『リナ!』
 しかし、リナは答えない。ただ胸を責め立てる想いは『早く………早く』であった。
「ああ、もぉ!」
 エリはぴたりと立ち止まると、何事かを呟きながら両手に力を集中させる。その手に、聖なる白い光が見える者には見えたであろう。
「はっ!」
 両手を前に突きだし、念を込める。————しかし、ヒトエはそれをするりとかわした。
「はいっ?」
 背中をこっちに向けて、こちらの動向なんて見えないはずなのに、どうして?
 思わず、エリはぞくり、とする。
————もしかして、これが魔剣士の本当の力?まだ、ヒトエはそれを解放されてないだけで。
 エリは、前髪をかきあげると、
「………敵じゃなくて、良かったよ」
 しみじみと呟いたのだった。


「リナ!スト〜〜〜ップ!!」
 お願いだから、止まって!!
 ヒトエの叫びが通じたのか、それとも目的地に着いたからなのか、300m程走ってから、ヒトエの身体は止まった。
 ぜいぜいと息を切らしながらも、きょろきょろと辺りを見回す。
『何………何を探してるの?』
『————さっきの………確かに………』
 リナの呟きがぶつぶつと聞こえる。だけど、ヒトエの問いに答える余裕はない。
 妙に急かされる心。そわそわして落ち着かない。
「リナ」
 ヒトエは思わず口に出して呟く。しかし、不意に口からついて出る言葉。
「————いた」
 耳に届く歌声。透き通る程に。
「この曲は………」
 聴いたことのない、言葉なのに。どうして、意味が解るのだろう?
『————柔らかいあなたの声に抱かれてる』
 どうしてだろう?胸が、痛い。
 ヒトエはそっと自らの頬に指で触れる。………その頬は、思った通り、濡れていた。

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