MAGIC


「さて、と………」
 美奈子が去ったのを見届けると、律子はくる〜〜りと振り返る。それには、びくり!と身を強張らせたりなんかして。
「な………何かな………?あ、あたし、用があったんだった!」
 じゃ、そゆことで!
 律子の脇を通り過ぎようとした途端、首根っこをぐいっと引っ張られる。
「ぐぇ!」
 苦しい、くるしいよぉ〜〜〜。
 じたじたとする玲奈を『ぽーん』とベッドに放り投げると、律子は腕組みをしてそこに近付いた。
「な………ななな、何?」
「あのさぁ、玲奈」
「なに?」
 律子は身を屈めて、じぃっと顔を覗き込んでくる。それに思わず身を引きながらも、視線は逸らさなかった。
「あんたさぁ………もしかして」
「うん?」
 なんだ、なんだ一体。何を言いたいんだ?
「————惚れた?」
「誰に?」
 律子の問いに、玲奈は速攻で返した。それに律子は、『がくぅ』と来る。
 じ………自覚、ないんか、こいつ………。
「————誰にって………奈々さんに」
「んぁ!」
 ど………どどどどどどどうして、沢詩先輩の名前が、ここで!
 それでも、その名前に顕著に反応してしまう自分がいて。胸はどきどき、頭はくらくら、顔なんか赤くなったりして。
 知らない、こんな自分なんて、知らない。
 玲奈は混乱する頭で、ぶつぶつと呟く。
 そんな後輩を、律子はにやにやしながら見守っていて。その視線に、玲奈は不意に気付く。
「りっちゃん!」
 からかってるでしょ?
「ううん………本気で訊いてるんだけど」
 あっさりと応える先輩に、玲奈は『がくぅ』と項垂れる。
「………そんなわけ、ないじゃん。昨日今日、逢った人なのに」
 玲奈の言葉に、律子はくしゃくしゃとその髪を乱した。そして、身を屈めて笑う。
「恋するのに、時間なんて関係ないよ?」
 じわじわ好きになるときだってあるし、一瞬にして恋に落ちるときだってあるしね。————だから、不思議なんだよ、『恋』って。
「そんなこと………」
 わかんないよ。
 ぽそっと呟く玲奈に、律子は告げる。
「ま………そうだろうと、そうじゃなかろうと、別にいいんだけどね」
 ゆっくりと、ドアを開き、部屋に出て行こうとする。しかし、不意に足を止めると、振り返り、玲奈の目を真っ直ぐに見た。————怖いぐらい、真剣な瞳。
「………もし、玲奈がそうだったら」
「ん?」
 小首を傾げる玲奈に、律子は口元だけで笑むと、
「あたしと、玲奈はライバルだね」
 ゆっくりと告げ、ドアを閉めたのだった。
「………………え゛?」
 どゆこと?
 既に、律子の姿などない空間に視線を向けながら、玲奈は思わず惚けた声で呟いてしまったのだった。

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