ハダカノココロ

15



「————この駅、だよなぁ」
 自分の家から反対方向の駅。息を切らしながら、絵理子は辺りを見回す。
「さて」
 『ふむ』と腕組みをして、顎に手を当てると、絵理子は小さく呟いた。
 これから、仁絵の家にでも行くか?でも、行ってどうする?告白?そんなこと出来やしない。
 自分のポジションはちゃんと判ってるつもりだ。————彼女が幸せならば、それで………それだけで、いいのだ。
 絵理子は小さく息をつくと、
「とりあえず………何か、買おっと」
 駅の隣にあるコンビニに足を向けたのだった。


「………天気、いいなぁ」
 最寄りの駅に到着すると、人混みを避けるように仁絵は先急ぐ乗客をやり過ごす。階段の脇に立ち、人並みが途切れるのを待った。
「まさに、こういう日を『デート日和』って言うんだな、うん」
 一人納得しながら、仁絵は空いた階段を下る。
 別にデートしたいって訳じゃないし。そもそもそんな柄じゃないし。里奈の事は、もちろん好きだけれど、こう『ときめく気持ち』というのは、あまり無かった。
————きっと、自分はどこか感情が欠落しているのだろう。
 仁絵は、ぼんやりと思う。
 だから、里奈が誰と浮き名を流そうと、どこかに行こうと戻ってこようと………それをあるがまま受け入れるだけだ。
「こんなんで、いいのかなぁ」
 さらりと前髪をかき上げると、定期を差込み、改札を通過したのだった。


「ああ、どうしよっかなぁ」
 駅から出てきた人が見えるように、雑誌コーナーで雑誌を開きながら、絵理子は思わず呟く。片手には、一応、何も買わないのはなんなので、ジュースとお菓子。————家に帰ったら食べればいい、なんて思ったりして。
「………考えてみれば」
 仁絵先輩が、今日駅に来るって可能性、知らないんだよねぇ。
 今更ながら、のほほんと思ってしまう、絵理子である。
「まぁ………後、30分………いや、10分待って来なかったら………帰ろ」
 既にここには30分以上いる。これ以上は店員の目が厳しくなってきた。
「あーあ」
 ふと、視線をあげると、目の前を見知った顔が通り過ぎてゆく。
 あ〜〜〜〜、あの人って仁絵先輩に似てるな〜〜〜〜。やばいなぁ、幻覚見ちゃうよ。
 ぼんやりと思っていた絵理子は、ハッと我に返る。
 似てるどころじゃないよ、本人だよ!!
 とりあえず、持っていた雑誌をぽん、と放りなげると、慌てて出入り口へと向かった。後で店員さんが、何か呟いていたけれど、それは心で謝って。
————このチャンスを、失う気はなかった。何をするかは、全く考えてなかったんだけど。

NEXT