「仁絵先輩!!」
不意に聞き慣れた声が、仁絵の耳に届いた。それに振り返ると、息を切らした絵理子がそこに立っていて。
「………え………絵理………ちゃん」
思わず、声がうわずる。しかし、それは気にならないのか、絵理子はにこぉっと笑って近付いて来た。
「————偶然、ですね」
待ち伏せしていた癖に、それはないだろっ!
心でツッコミを入れながら、絵理子は告げた。その言葉に、仁絵は小さく頷く。
「どしたの?」
無邪気に問う仁絵に、絵理子は思わず言葉が詰まった。しかし、ちょっと考えていたが、直ぐに正直者の性格が出てしまう。
「すみません!」
「へ?」
いきなりの絵理子の行動に、仁絵は目を丸くした。頭を下げたまま、絵理子は続ける。
「ほんとは、待ち伏せしてましたっ!」
————ああ、どうして、あたしはこういう性格なんだろ………。
とほほ、と思いながらも、絵理子はちらっと仁絵を見上げた。当の相手は、もの凄く困惑した表情をしていて。
ああ、当然だろうな、と思う。いきなり訪ねてきて、『待ち伏せしてました』はないよな。
絵理子は顔を上げると、前髪をがしがしとかきあげた。そして、困った表情のままの仁絵を見つめる。
「………えと………ごめんなさい」
でも、逢いたかったんです、先輩に。
その言葉は、懸命に飲み込んで。絵理子は小さく小さく息をついた。
「————謝らなくて、いいよ」
仁絵は、一つ頷くと、すっと顔を上げた。その目は、普段と違ってどこか意思のある瞳だった。
「………取りあえず、立ち話も何だからさ」
あたしの家に、おいでよ。
仁絵の言葉に、一瞬、絵理子は耳を疑った。だけども、すぐにぶんぶんと頷く。
「———どこか、行ってたんですか?」
歩き出す仁絵の隣をゆっくりと歩きながら、絵理子は問うた。それに、仁絵は一瞬、口を閉ざす。
絵理ちゃんは、知ってるじゃない?あたしと、里奈が付き合ってる事。なのに、どうして言い淀むの?
思わず、自分自身に問いかけてみたりして。————だけど、答えは出ない………いや、本当は出ているのだ。
「仁絵先輩?」
「————うん、里奈のトコ。泊まってたから」
つきり。
絵理子は思わず胸を押さえた。だけども、それはあっていいのだ。自分が、何かや言うべき事ではないのだ。
「絵理ちゃん?」
「————何でも、ありません」
そう言いながら、泣きだしそうな表情をしてる。自分で、解った。