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加納朋子

〈著作リスト〉
ななつのこ/1992/東京創元社/駒子シリーズ1/第3回鮎川哲也賞受賞
魔法飛行/1993/東京創元社/駒子シリーズ2
掌の中の小鳥/1995/東京創元社
いちばん初めにあった海/1996/角川書店
ガラスの麒麟/1997/講談社/第48回日本推理作家協会賞受賞
月曜日の水玉模様/1998/集英社/片桐陶子シリーズ1
沙羅は和子の名を呼ぶ/1999/集英社
螺旋階段のアリス/2000/文藝春秋/アリスシリーズ1
ささらさや/2001/幻冬舎
虹の家のアリス/2002/文藝春秋/アリスシリーズ2
コッペリア/2003/講談社
レインレイン・ボウ/2003/集英社/片桐陶子シリーズ2
スペース/2004/東京創元社/駒子シリーズ3

ななつのこ ★★★

東京創元社、1400円、短篇連作集。
短大生の入江駒子は、ある日強烈に心惹かれる一冊の本に出会う。
その著者との文通を通じて、一つ一つの日常の謎が解き明かされていくといった工夫が、随所にみられる。
淡々とした作風で、さわやかな印象。

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掌の中の小鳥 ★★★★

創元クライム・クラブ、1300円、短篇連作集。
この作品はたぶん「ミステリー」なのだろうが、今回はあえて主人公たちの「ラブストーリー」を主軸に、「ミステリー」は副軸ではないだろうか?という勝手な思いこみで読み進めることにした。
冬城圭介と、穂村沙英・・・この二人が織りなす、日常的な会話や出来事の中にひそむ謎や心理のひだが綴られていく物語。
しかもエピソードが丹念に積み重ねられていて、いかにも加納さんの作品といった香りがする。
ひとつひとつの独立した短い物語が、次のお話に実は関係していたり、あるいは思わぬところでスパイスのようにきいているといった意外性もいい。
特に沙英の人物&性格描写は、かなり心憎い。
地味だけれど読んでみて、穴場のおいしいケーキ屋さんを発見したときのような気分になれる1冊。

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いちばん初めにあった海 ★★★

角川書店、1500円。
アパートで一人暮らしをする堀井千波が、引越しの準備をしながら、ふと見つけた一冊の本。
全く見覚えのない本の中には、未開封の手紙が…。
しかも、「YUKI」とある差出人にもまったく心当たりがない。
そのときから、千波の過去の記憶をたどる旅が始まる。
心に深い傷をもった女性の再生を描くミステリー。

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月曜日の水玉模様 ★★★★

集英社、1600円、短篇連作集。
日常に起こるさまざまな事件を、中小企業のOLである片桐陶子が解決していく短編連作集。
きびきびとした主人公に、とても好感がもてる。
加納さんの作品は「手作りパッチワーク」のようなイメージがあるが、今回もかなり丹念に縫い合わされた作品。
ありふれた日常描写がハッとするほど新鮮で、加納さんらしさあふれる、おすすめの1冊。

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沙羅は和子の名を呼ぶ ★★★★

集英社、1700円、短篇集。
不思議で、切なくて、優しい…そんな小さな物語が10編集まった作品。
しかも、どの作品も全て趣が異なるので、さまざまな世界が楽しめる。
中でも私が気に入ったのは、「商店街の夜」。
最近どこでも見かけるのは、櫛の歯が抜けたかのように寂れていく商店街や、人工的な飾りつけをしている通り…。
そんなある日、古ぼけたシャッターにせっせと絵を描く人物が現れ、やがて絵が完成した頃から、不思議なことが起こり始めた…きっと身近にあるに違いない、そんな気分にしてくれる「ご近所ファンタジー」がコレ。
他にも、「天使の都」や「エンジェルムーン」、表題作の「沙羅は和子の名を呼ぶ」もおすすめ。

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螺旋階段のアリス ★★☆

文藝春秋、1524円、短編連作集。
仁木順平は、つい最近まで、本社を丸の内に持つ、ある大手企業のサラリーマンだった。
『転身退職者支援制度』を活用して、3日前から雑居ビルの二階で私立探偵を事務所を開いていた。
年齢も50過ぎてからの独立。
自分だけのオフィス。
「仁木探偵事務所」という看板。
感無量で開設したのはいいが、ふと不安になるのは「はたして依頼人はくるのだろうか?」という、不安と厳しい現実。
電話帳にも広告を載せ、宣伝用チラシも配ってはみたが、電話もドアの外からも何の反応もなく、手持ちぶさた状態になっていた。
と、そこへ一人の少女が現れる。
真っ白な長毛の猫を抱いた、絵に描いたような美少女。
猫の名前はダイナ、彼女の名前は「市村安梨沙」。
ルイス・キャロルの不思議の国のアリスをこよなく愛し、かつアリスを彷彿とさせる、そんな不思議な少女だった。
唐突に、彼女は探偵の助手を仁木に申し出て、依頼人が来るより先に助手が決まるという奇妙な展開になってしまう。
そのうちに、少しづつ依頼人も来るようになって、日常生活の中でのささやかな事件をアリスと共に解決していく。
謎の美少女、アリスの謎も明かされていくが・・・。

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ささら さや ★★★

幻冬舎、1600円+税、短篇連作ミステリー。
ひどく切ない物語の設定である。
かわいいユウスケ坊やが誕生したばかりの、幸せな新婚家庭を突然襲った悲劇—あっけなく愛する夫を交通事故で喪う、内気で泣き虫なサヤ。
しかも夫の実家は、名の知れた映画会社を経営しており、その跡継ぎにと、ユウスケ坊やを養子に欲しいと申し出る始末。
両親とは早くに死に別れ、数少ない身内だった大好きな伯母も、サヤがユウスケを身ごもっている間に亡くなってしまう。
伯母の残してくれた家—埼玉県佐々良市に移り住んだサヤは、三婆たちや、エリカ親子、喫茶店「ささら」のマスターたちと知り合うことで、少しずつ成長していく。
そんなサヤを、幽霊になった夫がハラハラしながら見守るのだが…。
映画「ゴースト」では泣けまくった私だが、本書に限っては、主人公とのキャラのあまりの差違にちょっと引いてしまい、感情移入できずに読み終える。
事件とその解決が、ちょっと安易かつ突飛すぎる気もするのが残念。
[収録作品]◇トランジット・パッセンジャー ◇羅針盤のない船 ◇笹の宿 ◇空っぽの箱 ◇ダイヤモンド・キッズ ◇待っている女 ◇ささら さや ◇トワイライト・メッセンジャー
(2001.10.10初版発行)

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虹の家のアリス ★★★

文藝春秋、1762円+税、短篇ミステリー。
2000年11月に刊行された「螺旋階段のアリス」の続編。
「螺旋階段のアリス」同様に、日常にあふれた大小さまざまな謎を、仁木所長と優秀な助手にしてお茶くみ担当である安梨沙が解決していくもの。
前作と異なる印象を受けた点は、やはり安梨沙の変貌ぶり・・・というより、成長といった方がより近い感想かもしれない。
絵本の中から抜け出したような、それこそ「不思議な国のアリス」そのもののような印象だった安梨沙が、少しずつ、でも確実に大人への階段を登っているのだ。
そういった点も含めて、是非続編を望むシリーズのひとつでもある。
巻末の「つながることへの信頼—加納朋子論」と、「加納朋子スペシャル・インタビュー」も読み応えがあり、ファンにとっては嬉しい。
[収録作品]◇虹の家のアリス ◇牢の家のアリス ◇猫の家のアリス ◇幻の家のアリス ◇鏡の家のアリス ◇夢の家のアリス 

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コッペリア ★★★☆

講談社、1600円+税、長篇ミステリー。
タイトル通り、「人形」がモチーフとなっている。
人形に取り憑かれたように魅了され人形を中心とした人生を歩む男、狂気のように人形を創作する人形師、人形に恋をする若い男、人形に瓜二つの女優…さまざまな人物が、「人形」をキーワードに絡み合い、人間模様を紡ぎだしていく。
それにしても「人形」は、ミステリアスな舞台に格好な小道具になるものだ。
如月まゆらの創作する人形たちの存在感は実にリアルで、この物語の進行に大きく関わっている。
想像してみるだけだが、一体どんな表情を持つ人形なのだろうか。
大いに興味がそそられた。
また脇役キャラでは、アンティーク喫茶店の店主が、登場回数は少ないものの印象深い。(2003.12.04)

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レインレイン・ボウ ★★★★☆

集英社、1700円+税、短篇連作ミステリー。
「月曜日の水玉」の主人公だった、片桐陶子が登場する物語。
陶子は高校時代にソフトボール部のエースでキャプテンをしていたのだが、その当時のメンバー牧千寿子(愛称チーズ)が病死(過労死か!?)したという知らせが入ってきた。
久々にお葬式に集った、昔のチームメイトたち。
七編の物語は、七年ぶりの彼女たちを、虹の七色に喩えるように、彼女たちの現在と、チーズにまつわる話を紡いでいく。
23〜25歳の—結婚して子供が出来たり、バリバリのキャリアだったり、天職ともいえる仕事についていたり、いまだに何をしたいのか見つからなかったり・・・と、高校・大学を卒業し社会に出て、少しずつ経験を積み始めた頃の女性たちを、みずみずしく丁寧に描いている点にも好感が持てる。
意欲作ともいえる「コッペリア」に対し、加納朋子の王道(!?)ともいえる、日常のささやかな謎を追い求めるミステリー。
私的には、「コッペリア」も面白かったのだが、今回この作品を読んでみて、加納朋子らしい作品に思わず引き込まれてしまった。
加納ワールドを堪能したい方に、絶対おすすめの1冊。
[収録作品]◇サマー・オレンジ・ピール(渡辺美久=旧姓・神林) ◇スカーレット・ルージュ(小原陽子) ◇ひよこ色の天使(善福佳寿美) ◇緑の森の夜鳴き鳥(井上緑) ◇紫の雲路(坂田りえ) ◇雨上がりの藍の色(三好由美子) ◇青い空と小鳥(片桐陶子&長瀬里穂)

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スペース ★★★

東京創元社、1700円+税、中篇ミステリー。
「ななつのこ」「魔法飛行」に続く、久々の駒子シリーズ登場。
第二作発表以来、実に11年が経過しているが、あくまでも続編としての位置づけである。
本書は「スペース」と、「バックスペース」の中篇2編から構成されているが、その2本立てが実に楽しい仕掛けにあふれている。
「スペース」は延々と、手紙ばかりが続くのだが、たわいのない会話の中に、さまざまな謎(というには大袈裟すぎるが…)があれこれ散りばめられているのである。
まるでマジカル・アイの本とにらめっこしているような気分になる。
謎を仕掛けている「スペース」と、背中合わせになっているのが「バックスペース」。
読み進むうちに、何度も手紙やエピソードの箇所に戻っては、確認する始末。
あまりにも清々しい、乙女チックな青春ではあるのだが、登場キャラを見渡す限り、作中での違和感は少ない。
短大生(10数年経過していようが、主人公は短大生のまま!)の駒子や、その友人たち、そして瀬尾さんとの関係も気になるところだが、本シリーズは次回で完結編となる予定。
[収録作品名]◇スペース ◇バックスペース
(2004.5.28初版発行)

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