〈カーリン・ブラッドフォード〉
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すぐ書房、1942円+税、訳/石井美樹子。
ロンドンに旅行した際、美術館ナショナル・ギャラリーで、釘付けになった一枚の大きな絵画があった。
題は「レディ・ジェーン・グレイの処刑」。
1833年にフランスの画家ポール・ドラローシュによって描かれたものだった。
まがまがしい斬首の直前を描いた作品だというのに、中心にいる目隠しをされた美しい少女は、神々しく天使のような可憐さをたたえている。
白いハンカチで目隠しをしたジェーンが、首を載せる台を手さぐりで探している場面である。
純白の衣装に身を包み、輝くような金髪がほっそりした肩にふさふさとかかり、不安そうにしながらも、その死の瞬間まで気高さをたたえたその姿に魅入ってしまったのだ。
何故、こんな少女が、こんなにも残酷な刑に処されなければならなかったのだろうか…!?
当時の私は、レディ・ジェーンに関しては、全く無知であった。
ナショナル・ギャラリーを訪れたのも、他にお目当ての絵画があったからである。
にもかかわらず、この一枚の絵は私に強烈な印象を残した。
今でも、あの絵はしっかりとまぶたに焼き付いているほどである。
レディ・ジェーン・グレイ…欲に駆られた大人たちのために、自らは預かり知らぬところで企てられた王位継承の陰謀。
その女王として担ぎ出され、たった九日間だけ王冠をいただいた女王である。
イギリス正史にはほとんど語られることのない女王だが、たった16年の人生を全うするために、最後の最後まで毅然とした女王らしさを保った姿には心打たれる。
本書は、幸せいっぱいだった少女時代から、斬首の刑に処されるまでのジェーンの一生を辿った1冊である。(1991.11.20初版発行)
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