『終章:明日』 -4
目が覚めても、俺の腕の中には一条さんがいた。
俺の腕の中で、あなたが眠っている…。
一条さんは、頭を俺に預け、悪いほうの左手も軽く俺の腕にかけて、ぐっすり眠っていた。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ もう一度、目を覚ますと、今度は一条さんが俺を見ていた。 「…起きてた、の?」 「おまえの…寝顔を、見ていた…。」
俺たちは微笑み合って、手を伸ばし合う。互いの頭を抱えて、引き寄せ合って、唇を合わせる。 …俺の我慢も、もう限界だった。
「…一条さん…抱いて、いい? 唇の離れた合間に、かすれ声で囁く。
「…俺も…狂いそうだ… 一条さんの声も苦しそうだった…。
俺たちは性急にお互いのパジャマのボタンを外し合い、むしり取るように脱がし合った。 「雄介…大丈夫だから…はやく…。」
毛布の下で、パジャマズボンも下着も蹴り合うようにして脱がし合い、ようやく俺たちは全裸で抱き合う。 「ああ…やっと…!」 「うん…ああ…おまえの肌だ…」 「…ああ…気持ちいい…一条さん…好き…」 「…雄介…雄介…ようやく…」
抱き合い、擦り合って、うわ言のような呟きが続く。 ようやく少し落ち着いた頃、一条さんの脇に両肘をついて起き上がり、俺は目を合わせる。 「…胸、痛くないですか?」 一条さんは少し笑って首を振る。 「…大丈夫、らしい…もう、治った…」 朝の光の中で、咲き始めた花のようだった。俺の腕の中で、あでやかに咲き誇るのを待っている…。 「一条さん…俺の一条さん…綺麗…」 一条さんがうっとり笑う。
「全部…おまえのだよ…雄介…食べて… 「はい…」
応える俺の笑顔を見て、一条さんは急にまた、俺を抱きしめた。 「ああ…本当に、おまえといる…これだけで、いきそうだ…」 俺は髪を撫でて宥める。
「駄目ですよ…俺、ゆっくり食べるつもりですから。
欲情だらけの目で見つめ合いながら、くちづけて、俺は一条さんを食べ始める。 「ああ!あ…ゆ、うすけ…」
前は、あなたは「五代…」と呼んで崩れた。 一条さんが叫び声を殺そうとして、手を噛んだ。 「だめ…かまないで…」 俺は優しく、口から手をはずして自分の口に入れる。指の一本ずつを舐めしゃぶった。 「いや…ゆう、すけ…やめ…」 「噛まないで、一条さん…噛むんなら、縛りますよ…」 一条さんは、一瞬狂ったような目で俺を見た。その目で俺も狂いそうだ。 「…かまない、から…しばら、ないで…」
縛られたいの?一条さん…? 「縛りませんから…噛まないで…」 「だって…声が出る…」 「もっと…聞かせて…俺、好きですよ…」 そう言って、両手首を掴み、抑えてつけて、綺麗な鎖骨に歯を立てる。 「ああっ!!」
もう、どこもかしこも敏感になっているんでしょう? 「う…ん…いや…」
一条さんは、もどかしそうに、ゆるく首を振る。 「ゆうすけ…そこは…変だ…ああ…」 「…よくない?」 「…いい…わからない…ああ…やめろ…」
たぶん、いいのだろう…と、俺は思う。 (そこは…また、だんだんに馴らしてあげますからね。) 可愛い色付きをなぶっておいて、硬くなったところを噛む。 「ああっ!!ゆう、すけ…そこも、いや…」 この場合は、良いということ。 「手、離しますけど…噛まないで。」
抑えていた手を離し、腹を撫で降ろす。 (ああ…駄目だ…少し、落ち着いて…落ち着かせないと…。)
あまり暴れると、やはり傷に触りそうで、心配になる。 「どうしました?…こわい…?」 震えながら、笑う。 「感じ…すぎて…。俺は、変だ…。」 「久しぶり、だから…俺も、変、です…。」
また…一条さんは、処女のようだった。最初の頃を、思い出す。 「ごめん…俺、欲しくて…ゆっくり、できない…」 「急いで…俺も…欲しい…」
空いた手を下に伸ばして、昂りを緩く握った。 「…一度、いきたい…?」 俺の肩に伏せて震えながら、首を振る。 「…いやだ。おまえが、欲しい…入れて…」 「はい…。」 昂りから離れた手で柔らかく袋を揉んで、後ろに達した。一条さんは膝を立て、触れやすくしてくれた。 「一条さん…」
蕾に触れながら呼ぶと、目を開ける。焦点が合っていない。 「俺…うっかりしてたんですけど…潤滑剤なんて…ないですよね?」 一条さんはうっすら笑った。
「…ヘッドボードの…引き出しに…新しいのがある…
準備がいい一条さん…
チューブはまだ箱に入っていて…まるっきり手をつけた形跡はなかった。 「あああっ!!」
叫ぶと、また急に締まってしまう。顔を見ながら、宥めながらのほうがいいかもしれなかった…。
…急に全身が見たくなった。 「…よく、見えますよ…俺の指を飲み込んでいるところ…」
かすれ声で煽る。喘ぎながら恨む目がいい…。ぐっと締まってまた緩む。 「ああっゆうす、け!」 一条さんがまた仰け反って叫ぶ。 (いけない…俺のほうが…) 暴走しそうになって、堪えた。 (落ち着け…傷つけて、しまう…)
俺も横になり、また頭を抱き込む。一条さんは、肌を寄せているほうが喜んで昇りやすい。 「ああ…あ…ゆうすけ…ゆう、すけ…」 抱き付いてくるのを抱き止める。腕の中で身体の強張りが溶けていく。声も蕩け出していた。蕾は急に緩みだし、からみつくようになってくる。 「一条さん…いい?」 「…知っている、くせに…」 喘ぎながら、言い返してくる。 「知ってるけど…言って…」 「う…言う、と…よけい…」 「言って…。いいの?」
この身体は、感情に反応する。俺を愛していなければ、決して開かない。 「ちくしょう…ああ、そうだ…いい…いい…ああ、いい…ゆう、すけ…」
いい、と叫び出したら、急に乱れてしまった。 「ああ…ゆうすけ…もう…して…して…」 「だめ、ですよ…まだ…」 「だって…いってしまう…ああ……して…して…ゆう、すけ…して…」
俺は果てもなく耐えていた。 (駄目だ…こんなの、耐えられない…。) それでも、まだ蕾はほぐれきっていなかった。無理に犯すことは絶対したくなかった。 「ああ…いく…!」 一条さんが俺にこすりつけてきて、昂りが擦れ合い、俺は突然、堪えきれなくなった。 「だめ…いち、じょうさん…」 思わず、強く抱き寄せた瞬間、精が漏れ出してしまうのを感じる。止めようと食いしばる歯と拮抗して苦しい。一条さんも俺の指を喰い締め、溢れさせていた。 「ゆ、うすけ…だ、から…して…と…」 堕ちるのと翔ぶのを同時に味わっているような顔をして、一条さんがうめく。 「あぁ…ぅ…」
俺も頭を反らしてうめいていた。止めたいのに、止められない…。 「ああ…あああぁ…」
一条さんが喘ぎ、俺も悶えて、叫ぶ。
一条さんの肩に、逆に縋るようにして、俺は息をはずませながら、目を開けた。 「雄介…まだ何もしてないのに…」 余韻を含んで、笑っていた。額に軽くくちづけてくれた。 「…俺、溜まっていたんでしょうか〜」
「俺も、かな…。
密着している二人の腹の辺りが、ぐちゃぐちゃになっている。 「…どうします?」 「…どうしようか…」
目を見交わして、俺たちは笑っていた。 「…これは?」 深く挿したままの指を僅かに動かすと、笑いながら、仰け反って喘いだ。 「よせ…」 「せっかく…いい感じだったのにな〜〜」 「だから…さっさと入れてしまえばいいのに。」
「そんなこと、できませんって。 一条さんは笑い、感謝の手を伸ばして俺の髪を撫でた。撫でながら、感触にまた喘いで、また笑う。
「…とにかく…抜いてくれ…シャワーと飯にしよう。 「はい…」
未練を残して、俺は指を引く。 「一条さん、俺の淫乱魔人…復活しちゃったかもしれませんけど〜」 一条さんは、目を開け、面白そうに俺を見る。 「雄介…俺は、いつでも歓迎していたんだよ…。」 |