『第8章:前夜(2001年1月29日〜30日)』 -1


「一条さん、レーダーはいつ完成するんですか?」

 土砂降りの中を、ビートチェイサーに跨がったままの五代が振り返って聞いた。
 ヘルメットを取ってしまった五代の髪と顔は、すぐに雨に打たれて濡れていく。

「おそらく…明日の夜だろう。」

 パトカーから降りた俺も、雨に打たれながら応えた。

「じゃあ…すみませんが、明日、俺、ちょっと遠出してきたいんですけど、いいですか?」

 殺害現場に振る雨の音が、五代の声を掻き消す。

「どこに行くんだ?」

 声を張り上げなければならなかった。
 俺たちは、もうずぶ濡れだった。

「栃木の神崎先生に会ってきます。
 それから、みのりのところにも。椿さんにもひかりさんにも桜子さんにも、会おうと思ってます。」

 五代も、声を大きくしていた。
 それでも、叩きつける雨が五代の声を消した。
 働く鑑識も、救急車も、雨の帳に覆われて、俺にはそばにいる五代しか見えなかった。

「そうか。行って来たらいい。」

 五代の表情が見たかったのに、邪魔な雨が俺の目に流れ込む。

「すみません。何かあったら、連絡ください。」

 俺はただ頷いた。

(五代…おまえの心は、話さなくてもわかる…もう、俺には。)

「それから…」

 五代が俺を見つめる。
 静かな声だったが、俺には聞こえた。

「今夜…行きますね。」

 俺も五代を見つめ、頷いた。

「じゃあ…」

 五代はずぶ濡れの髪にヘルメットをかぶり、アクセルをふかして走り去った。
 土砂降りの雨はビートチェイサーのエンジン音をすぐに消し、五代の姿は瞬く間に見えなくなった。

         ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 夜。  雨はやまない。

 五代はまたおでんを抱えてやって来て、二人で食べ終えたところだった。
 今夜の五代は、よくしゃべる。
 だが、言葉のとぎれる合間に、また雨の音が耳につく。
 俺は相槌を打ちながら、五代のおしゃべりを聞いていた。

「それで、そのアンナプルナって山ん中で遭難しかかったんですよ、俺…。」

 五代は楽しそうに笑って話していた。
 だが、その目は別のことを語って、俺を見つめている。

「一人だったのか?」

 尋ねながら、俺も五代を見つめた。

(五代は、別れを告げている…)

 静かな目をしていた。もう揺るがない目だった。
 五代は、とうとう…覚悟してしまった。

「いえ、現地の案内人の子供と二人だったんですよ。
 だんだん陽が落ちてきて、俺は怖くて泣きそうだったんですけどね。
 俺と同じくらいの歳なのに、その子は『大丈夫だよ』って笑顔で…。
 なんかカッコいいなって…俺、思いました。」

「五代の笑顔のルーツか?」

 俺も笑って訊く。

「そうですね…そうかもしれません…。」

 五代が穏やかに首を傾げながら応え、会話はとぎれた。
 ただ雨の音が、土砂降りの雨の音が、俺の部屋を満たしていく。

 この大量殺戮が始まってから、雨が止んだことはない。
 こんな…天候まで左右する力を持つ怪物、0号は、すでに三万以上の人命を奪っていた。
 この殺戮にルールはない。0号はどこにでもいきなり現れて、人々をただ焼き尽くした。
 神経断裂弾は、緊急に全国に配備された。だが、今回も…駆けつけた警官ごと、0号は焼き尽くした。
 0号が去った後には、焼け焦げた死体が累々と倒れ、煙を上げている。土砂降りの雨に打たれて、死体から煙と共に蒸気が上がる。現場はいつも、手探りしなければ歩けない程に煙と蒸気に閉ざされ、異様な匂いが立ち篭めていた。
 地獄、とはこのような場所だろう、と俺は思う。
 この地獄を、終わらせなければいけない。
 0号の居場所を感知するレーダーの開発が進められていた。おそらく明日…それは完成する。場所がわかれば、五代は、クウガは0号を追うことができる。
 明日…五代は終わらせるつもりだ。

 五代と俺は8日前に0号に遭遇し、闘った。
 いや、0号が五代を、クウガを待っていたのかもしれない。

 俺は、新型の神経断裂弾に望みを繋いでいた。
 あいつに、思う存分、断裂弾をぶちこんで、殺したかった。
 だが、撃てる距離まで近付くことができないうちに、俺は焼かれかけた。
 クウガになった五代が、かろうじて俺を救った。
 そして…俺を安全な場所まで導いた五代は、0号に向かっていった…。

 46号との戦闘で重症を負い、自ら心臓を止め、椿に電気ショックを施させ…
 さらに強くなって甦り、黒い姿になって、46号を倒した五代だった…。

 だが、その黒いクウガも、0号には叩きのめされ、再び五代は死にかけた。

(もう…五代にできることは、ひとつしか残っていない…。)

 俺には、よくわかっていた。
 五代は『凄まじき戦士』になるだろう。

 究極の姿になり、0号と対等になれば…
 五代は0号を倒せるかもしれない。
 だが、それは、五代の死を意味している。
 五代も怪物になってしまう…。
 五代は…もう決めてしまった。
 五代は、0号を倒して死ぬつもりだ…。
 俺は…五代を殺さなければならない。

 雨音だけが続く部屋で、俺は、五代を見つめていた。
 五代も俺を見つめていた。
 やがて、口を開いて、静かに言った。

「一条さん…俺、なります。」

 俺は僅かに頷く。
 それから、目を閉じた。
 俺は五代を止めたい。…だが、止められない。

 目を開くと、五代は変わらずに俺を見つめていた。
 遠い遠い静かな眼差しが、あなたが愛しい…と、俺に語る。

「…とうとう…こんなところまで、来てしまったな…。」

 俺は、五代を見つめながら、呟く。

「…はい。」

 五代が、俺を見つめながら、応える。
 雨音が、すべてを覆い尽くす。

「五代…風呂に入ろう。
 今日は、俺が洗ってやるから。」

 今日は…と、俺は言った。
 明日…おまえは死ぬ。

 五代が嬉しそうに笑い、頷いた。

         ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 黙ったまま。五代の髪を洗い、五代の身体を洗った。

 何度、五代と一緒にこの浴室で過ごしてきたのか。
 最初は、いきなり五代に襲われた。
 いつの間にか、五代が訪れた夜には一緒に入るのが習慣になってしまった。
 こんなに狭い浴室なのに、大の男が二人で。
 俺たちは、短い一夜の逢瀬には、片時も離れたくなくて。

 俺たちは、いつも疲れきっていた。
 飯を食い、風呂に入り、抱き合う…それだけがやっとできる時間しか、持ち合わせていなかった。
 裸になって一緒に風呂に入り、互いの身体を洗い合うのは、その後のベッドへと続く楽しみだった。
 俺が五代の身体を洗うことは少なかった。五代はいつも俺に触れたがり、俺の身体を洗った。
 この狭い浴室で…たびたび、ひざまづいて五代は俺の全身を洗った。洗っているうちに欲情して、俺を口に含み、俺を飲み干した。
 ここで、二人共我慢ができなくなり、身体を結んでしまった夜もあった。

 だが…それも、終わる。
 おそらく、この浴室で五代と過ごすのは、これが最後だ。
 このマンションの小さな部屋に、俺たちが揃って戻ることは、もうないだろう。
 先はわからない。だが…これが最後だ、ということだけは、俺にはわかっていた。

 今夜は、俺が五代の足許にひざまづいていた。

「足を上げて…五代…」

「はい…」

 いつも五代がしてくれたように、足裏も、指の間も綺麗に洗って流し、もう一方の足も同じように抱えて洗う。
 明日は死んでしまう恋人の身体を、俺は丁寧に洗い浄めていた。

 それから、掌にソープを取り直して、股間を洗ったが、五代は反応しなかった。
 俺は何も言わず、五代も何も言わなかった。俺は後ろまで手を差し込んで、洗った。
 立上がって、シャワーの湯で流していく。ぬめりが残らないように手で触れて確かめながら、俺は五代の身体に湯をかける。

 暖かい、しなやかな身体だった。
 俺は、この身体を愛していた。
 明日には、この美しい身体は、世界の贄になる。

 あの不思議な石がある筈の、腹の付近に俺は触れる。

 『凄まじき戦士』になったおまえが、もはやおまえでなくなる時。
 俺はここに神経断裂弾を撃ち込む。
 全身の神経組織をずたずたに引き裂かれ、おまえは息絶えるだろう。
 この身体は、冷たく冷えるだろう。
 笑顔は凍り、その目は閉じられるだろう。

「ありがとうございました…さっぱりしました…。」

 静かな声に目をあげると、五代は俺を見て笑っていた。

 頭を傾けて、ゆっくりとくちづけてくる。
 暖かい唇を、俺は受けとめた。
 唇はすぐに離れて、五代は俺と額を合わせながら、濡れてしまった俺の髪を掻き上げる。
 愛しくてしょうがない…と、素直なまなざしが語る。
 唇が頬をなぞり、耳を噛んだ。
 俺は耳が弱くて、つい反応してしまう。

 俺の身体にゆるく手を回した五代が、笑いを含んだ声で囁く。

「一条さん…今夜は抱かせてくださいね…。」

「抱かなかったことなんか、ないじゃないか…。」

 俺も笑いながら応える。

 これが最後の夜だ。
 この優しい恋人を、俺は明日失う。
 おまえは、明日死ぬ。
 この地獄を終わらせて。
 二度と、おまえは帰らない。

         ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 再び五代の足許にひざまづいて、俺は五代の身体の水滴を拭き取った。
 五代は、まだ反応していなかった。
 首を傾げた五代が呟く…。

「あれ…?
 俺…やっぱり、怖いのかな…。」

 俺は立上がり、裸のままで五代の手を引いた。
 今夜は、何も着る気はなかった。

「おいで…五代…してあげる。」

 部屋の暖房を上げておいて、裸の五代をベッドに座らせた。
 その足許にまた俺はひざまづき、まだ柔らかくて小さな五代を口に含む。

「!…一条さん…!」

 考えてみたら、口で五代を愛するのは初めてだった。
 五代は最初から俺を口にしていたが、俺にはさせたがらなかったので。
 ためらいはまったくなかった。
 いつも凶暴な五代が、今はこんなに優しい姿なのが可愛い、と俺は思う。
 無理をせずに、俺はゆっくり口の中で転がし、舐めしゃぶった。
 片手でそっと毛を梳き、袋を揉む。

「あ…ああ…」

 五代が俺の髪に触れながら、うめく。
 口の中の五代は、すぐに育ち始めた。
 俺は柔らかく噛み、吸い上げながら、先端を舌でこね回す。

「ああ…一条さん…そんなことされたら…俺…」

 返事ができないので、一度顔を上げた。
 唇と舌の先で五代に触れながら、俺は見上げる。

「…出して、いいよ…五代…」

 五代は片手を後ろについて身体を支え、もう一方の手で俺の髪を掴んでいた。
 自分の股間から見上げる俺を見る。苦しそうな、狂いそうな顔をした。

「一条さん…そんなこと…しないで…」

 五代は辛そうに囁いたが、俺はかまわず、裏の筋を舐め上げ、横にくわえて軽く噛む。吸いながら先端まで移動して、もう一度五代をすっぽりくわえ込む。
 もう完全に硬く猛っていた。全部が口に収まらない程だ。
 俺は、歯を立てないように気をつけながら、唇をすぼめ、舌でいじりながら吸う。軽く上下に動かすと、五代が喘ぐ。

「…ああ…いい…」

 俺の髪を掻き混ぜていた五代の指が耳に辿りつき、小指が耳の穴に差し込まれる。
 俺は思わずうめき、その声で、口の中の五代も震えた。
 愛しさがこみあがって、俺は思いきり深く、五代をくわえた。吐き気を刺激してしまう舌の奥よりもさらに深く、喉の奥まで一気に収めて、俺は動いた。

「…ああ…そんな!…だめ、一条さん!」

 五代の声が切迫してきて、口の中のものも一層硬く大きくなり、喉を圧す。

 このまま五代の身体を飲み込んでしまいたかった。
 これは俺のものなのに、世界は俺から奪い去ろうとしている。
 最も愛しい唯一のものを、世界は俺に殺させる。
 もう慣れきって麻痺してしまった冷たい悲しみに突き刺されながら、俺はゆっくり五代を追い上げた。

「ああ…やだっ一条さんっ離して!!」

 五代は俺の頭を上げさせようとしたが、俺はその手を抑え、もう一方の腕で五代の腰を抱きこんで、ピッチを早めた。俺もとっくに勃っていた。

(五代…おまえを飲ませて…)

「いちじょう、さ…やめて…ああ…でちゃう…ああ…いく…あああっ!」

 悲鳴をあげて、五代は俺の喉の奥に放った。
 噴出の勢いに俺は一瞬むせ、それからすべてを飲み尽くした。さらに絞り上げて、舐めつくす。
 舌を刺す苦い刺激を、俺は喜んだ。

「…一条さん…だめ…飲まないで…出して…」

 五代が弱々しく言って、俺の髪をそっと引く。
 俺はもう一度綺麗にすべてを舐め上げてから、萎えかける五代を離して、顔を上げた。
 五代は泣きそうな顔をして、俺を見つめていた。

「…一条さん…飲んじゃったの?」

 俺は頷き、口から顎のあたりに溢れていた滴りを指ですくって舐めた。ぴりっと舌の先が痺れる。
 五代がそんな俺を見て、また狂いそうな顔をするので、俺は笑った。

「五代だって、しょっちゅう俺のを飲んでしまうだろう?」

「お…俺は、いいんです。一条さんは駄目、そんなことしたら駄目…」

 可愛い可愛い俺の恋人…
 俺はどうしてもおまえを殺さなければならないのか…?

「美味しかったよ…」

 まだひざまづいたまま、五代を見上げて、俺は言う。

 何度も何度も考え抜いてきたことだった。
 逃げ道はなかった。
 おまえがおまえでなくなるのなら。
 俺を愛さないおまえになるのなら。
 俺はおまえを殺そう…。
 他の誰にも殺させない。
 死ななければならないのなら、おまえは俺が殺してやる…。

 五代は、せつない苦しい目をして身体をかがめ、俺にくちづけた。

「…一条さんにも…してあげる…
 今日はいっぱい…愛したい…」

         ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 俺たちは抱き合って、ベッドの上にいた。
 もう言葉はなかった。
 五代は俺の上になり、俺を見つめた。
 俺は五代の上になり、五代を見つめた。
 見つめながらくちづけ、見つめながら髪を梳き、見つめながら頬を撫で、眉を辿り、またくちづけて、また見つめる。
 すべてを覚えていられるように、身体が朽ちても忘れないように…俺たちは見つめ合った。

 そして、深く抱き合った。
 ただ横たわって、俺たちは互いの身体を抱きしめた。
 五代がため息をつく。幸せで…今が幸せで…。俺も息を吐く。

 五代…行かないでくれ。
 五代…逝かないでくれ。
 いいじゃないか…世界は勝手に滅びてしまえば。
 いいじゃないか…あいつは勝手に殺し尽くせば。
 俺に、おまえを殺させないでくれ…。

 言える筈のない言葉を心に紡いで、俺は五代の背を撫で、また抱きしめる。

 なぜ…こんなことに…?
 なぜ…とうとう、こんなところに…?
 なぜ…俺たちがしなければならないのか…?

 答えがある筈もなく、五代はまた深く俺にくちづける。

 五代…俺を愛してくれ。
 俺のすべてを…おまえにやる…。
 俺の命も…おまえにやる…。

 五代が顔を伏せ、俺の首筋に歯を立て、吸った。
 俺は仰け反って叫んだ。

 おまえ…いつも、そこが好きだったね。
 いつもいつもそこを噛んで、俺はいつも言わなければならなかった。
 痕を、つけないでくれ。また明日…一日気にして過ごさなければならないから。
 おまえに愛された痕を、俺は隠して過ごさなければならないから。

 でも…もう、いい。
 明日は、もうない。
 噛んでいいよ…五代。
 俺に…せめて痕をつけて行け。
 愛した痕を、残して…逝け。

 けれど、五代は少し噛んだだけで、やめる。
 目を開けると、また俺を見つめている。

 おまえ…そんなに優しい優しい目をして。
 そんなに遠い遠い目をして。
 そんなにそんなに俺を愛して。

 死んでもまだ俺に憧れて。
 死んでもまだ俺に焦がれて。
 馬鹿だね…五代…おまえは。
 俺はとっくにおまえのものなのに。
 おまえが在るから、俺は輝くのに。
 おまえがいるから、俺は生きているのに。
 知らないのか?五代…
 おまえ…俺の太陽…。

「ごだい…俺を…食べてしまって…。」

 俺は、切れ切れに囁いた。
 五代は、俺を見つめて微笑んだ。

「うん。一条さん…俺、そのつもりです…。」

 そして…五代は優しく俺を食べ始めた。

         ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 最初の時のように。
 五代は、俺のすべてを確かめた。

 すべてを触れ尽くし、すべてを舐めつくした。
 すべてを与え尽くし、すべてを奪いつくした。
 時をかけた愛撫は俺を溶かし、俺を追い上げた。
 乱れていく俺を、五代はいつも見つめていた。

   遠い目。遠い優しい目。
 死を覚悟してしまった五代の瞳が、俺を追う。
 果てもなく哀しい目で、少しも悲しくない明るい瞳で。
 五代は、俺の姿を、追う。

 五代…五代…おまえは、強いね。
 本当に…真に強いのは、俺ではない。おまえだ。
 だったら…五代…。

 強いならば、五代…。
 生きて。
 生き延びてくれないか…。

「ああっ!」

 後門に指を挿され、俺は叫んでいた。
 前は五代の口に含まれ、吸われている。
 その上、五代は空いた手を伸ばして、俺の胸の突起を摘み、脇腹を撫で降ろす。

「ごだ…だめ…いってしまう…!」

「いって…いって…いちじょうさん…よる、は…まだながい…」

 俺を含んだまま、五代のくぐもった声が応える。
 すべての愛撫が一気に加熱して、すべての感覚が一度に火がついて、俺は昇りつめる。
 俺がさっきしたように、深く深く、五代の喉の奥まで、俺は吸い込まれた。
 同時に指を増やされて、深く深く、俺は五代にえぐり込まれた。

「ああっごだい…ごだい…ご、だ、い…っ!つれて…いって…っ!」

 行くのなら、俺も。
 逝くのなら、俺も。
 五代…俺を一人、残して行かないで…くれ。

 夫を、息子を、恋人を、戦場に送ってきた幾億の女たちと同じように…。
 祈りながら、願いながら、乞い伏して縋りながら、俺は五代の奥深くで達した。

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