『第6章:峠』-2
エネルギーを補充して、点検整備が終わり、磨きあげれば…あとは、ベッドに転がり込むだけ。
一条さんは、やはり風呂で少し疲れたようで、俺たちは早々に灯を落として、ベッドにもぐりこんでいた。
「俺…今日はやっぱり帰りましょうか。
また明日になれば、この人はみんなの先頭に立って、駆けなければいけない。 「五代…」
俺の腕の中の、一条さんが俺を呼ぶ。 「はい?」
何か言いかけているような気配だったんだけれど…一条さんは、しばらく躊躇ってから、ため息をついた。 「なんです?」 「いや、いいんだ…。」
言ってもしかたのない心配だから、一条さんは言わない…。そうだろう、と思う。 「五代…。」 「はい。」 「…抱いてくれ。」
一条さんは、静かに言う。 「でも。そんな怪我で…無理ですよ。」
「五代…おまえにも、俺にも、きっと必要だよ…。抱いてくれ。 「でも…。」 「…欲しいだろう?」 からかっているんじゃない。一条さんは、まだ真面目に言っている。 「俺は…いつでも、欲しいです…。」 「じゃあ、奪ってくれ。多少痛んでも、俺はかまわないから。」 「一条さん…。」 「五代…おいで…。」 一条さんの手が、俺の頭を捕らえて、引き寄せた。
傷ついて、疲れきった俺たちは、長いくちづけをした。
せっかく着たばかりだけれど…裸で触れ合っていたかった。 「いやだ…五代…もっと…ちゃんとさわってくれ…」 「だって…一条さん…さわれる場所なんて、ないぐらいですよ…」 「だから…いいんだ。かまわずに…」 一条さんが俺を引き寄せようとして、身体をひねり、脇腹の痛みにうめく。 「あつっ…ちくしょう…。」 「ほら…だから…駄目ですってば。」
駄々をこねる一条さんが可愛かった。 「一条さん…向こうを向いて…。俺、うしろから抱いてあげる…。」
傷のひどい側を上にして横向きになってもらい、俺は後ろからぴったり重なった。 「ほら…これで…いいでしょう?」 「五代の…顔が…見えない…。」 一条さんがまだ文句を言うので、俺は笑った。 「俺も見えませんから…おあいこです…。」
言いながら、なだらかな線の首筋にくちづけた。ここは痣がない。 「ん…」
一条さんの身体の緊張が弛んできていた。 「痣を、増やす…つもりか?」 ほら…。息が弾んで、声が甘くなっている。 「増やしませんよ…」 俺は、首筋を舐め上げて耳を探しながら言う。辿り着いて一条さんが小さく叫ぶ…。 「増やしても…いいさ。今…なら、誰も、判別…できない…。」 俺に耳を噛まれて、すぐに一条さんは、口がきけなくなった。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
手を廻して、一条さんを握り込む。もうとっくに硬くなって、先を濡らしていた。 (…今日はきっと、中に入るのは無理だ。)
でも、俺が触れて、一条さんが感じる声を聴くのは…とても、いい。 (…今夜は、一条さんを喜ばせてあげたい。)
俺は、手を少しだけ速めて、一条さんを追い上げようとした。 「ああ…いや…ご、だい…。」 「一条さん…暴れないで…。」
「いや、だ…いかせないで…。 「無理、ですよ…今日は…。」 「欲しいんだ…俺を開いて…入れて、くれ…。」
一条さんの直線的な誘い文句は、脳髄を感電させる。 「大丈夫なんですか…?」 「五代…して、くれ。」 「…ここ…離してもいいですか?」 「うん…」
俺は、前を離して、マットの下の潤滑剤を探り出した。 「一条さん…ごめん…ちょっと冷たいかも…」 「ん…」
濡れた指で、一条さんの後ろの蕾を探る。もう、一条さんは俺を待っていて、すぐに指が吸い込まれる。 「ああ…」
一条さんが背中を反らしてまた喘ぐ。いきなり入れてしまったのに、身体は強張らない。かえって全身が弛んだぐらいで…すぐに溶け始めていく。 「いつもと違うので…ゆっくりしますからね…」 「ん…ああ…ごだい…いい…」 「ちょっと…むずかしいんですけど…いい?」 「ああ…いい…いい…ごだ、い…」
一条さんが感じていく声は、それだけでもいけそうだ。顔が見たい、と思った。 「一条さん…暴れちゃ、だめ。静かに…ゆっくり…。息を…吐いて。」 身体が密着したので、指は少し深くなった。 「…くっ…ん…ああ…駆け、出して、しまいそう…」 「今日は…駄目です。走らないで、ゆっくり、俺を食べて?」 俺を食べて、と言ったら、ぐっと締まった。 「食べたい、の?」 「…う、ん。」
俺の言う通りに深く息をして、快感に抗おうとしている一条さんを、言葉でなぶる。 「…くぅ…う…ん…」 蕾は弛んでくる。 「ああ…とろ、ける…」 「指…増やしますから…ね。もっと…とろけて?」 ゆっくり…指を増やした。次第に深く侵入する。 「あああっ!ご、だい…いや…いきそう…」 一条さんの身体が俺の指を吸い上げて、飲み込んでいく。 「まだ…指だよ、一条さん…まだ…いかないで…」
一条さんの身体を後ろから抑えながら、深く深く指で侵す。 「だって…ごだい…ごだ、い…たまらない、んだ…」 一条さんの声は、泣いているように震えていた。脳味噌が溶けそうになる声だ…。 「そんな…声出したら、俺までいっちゃいますよ…。」
一条さんが少し笑って…笑ったら、また締まった。 「ああ…ごだい…もう…いれて…いれて…。」 「まだ…駄目ですよ。もう、少し…我慢して…。」
俺は少しだけ急いで…広げる動きを始める。 「ごだい…ごだ、い…もう…おねがい…」 いや、絶え絶えの囁きに追い上げられているのは…俺のほうかも。 「いちじょう、さん…いれますね…。」 「う…ん…。はやく…ごだい…はや、く…。」
俺も、早く入りたかった。 「ごだ…いやだ…もっと…」 「いちじょ、さ…こっちの足…動かせます?」 力が入らなくなってしまっている足を少し立ててもらって、足の間に俺の足を入れて…いくらか深くなる。 「…ああ…」 そのままゆっくり動いた。 「う…んん…」
半端な快感に、一条さんがうめく。 「いちじょう、さん?」
「さわらなく、ても、いける…から。
俺の手を胸に引き寄せる。 「ああ…いい…」
一条さんがけだるく喘ぐ。ゆっくりゆっくり俺は動いた。 「ああ…いい…たまら、ない…」 一条さんはますます溶けていく。身体が柔らかく投げ出されている。物憂気に頭を傾け、俺の腕を軽く噛んだ。 「まだ…たりない?」 「わからない…でも…よくて…たまらない…」
声までとろとろだ…。 「これ…なら…かなり、もつかも…」 「じゃあ…ずっとずっと…ごだい…」 「はい…ずっと…いっしょに…」
俺たちは、長く長く交わっていた。静かに、ほとんど動かずに、じれったく喘ぎながら…。 「ああ…あ…」
何度も締めあげられ、からみつかれて、また放される。 「まだ…だよ…いちじょう、さん…」 俺は言葉で止めておいて、腰を引きかける。 「あっいやっ…ごだいっ!!」
一条さんの身体が俺を追ってくる。吸い込むように俺を引き止める。 「ああっ…ごだい…ごだ、い…だめ…いってしまうっ…」 「だめ…まだ…ああ…」
今の動きで、二人とも一気に稜線を越えてしまったみたい…。 「あ…ああ…もう…とま、れない…ごだい…」
一条さんが、達しかけている…。 「ごだ…いかせて…もう…いかせて…!」 一条さんが啼く。 「ああ…もう…いっしょに…」
最後に、とうとう耐え切れず、半ば覆い被さるようにして俺は一気に攻めた。 |