『第3章:決意』-3完
結局は、一緒にシャワーを浴びることになってしまった、と俺は笑う。 「俺、洗ってあげます〜」 汚れているのは自分の身体なのに、目を細めて笑い、シャワーヘッドを握りしめている。 「自分を洗え。」 俺は、命令した。 「はい、でも、一条さんが風邪ひいちゃう〜」 慌ただしく、いい加減に自分の身体に湯をかける。 「ほら…貸せ。」
しかたなく、五代の手からシャワーヘッドを奪った。 「ああ〜ぬるぬる〜」 馬鹿なことを言って笑っているばかりなので、さらに股間も洗ってやった。 (まるで、これは五代のペースだ…)
思う壺に嵌められている自分を知るが、不快ではなかった。 (五代がクウガでなければ…) 俺は思念を断ち切る。 「こんなもんだろう…」 自分の身体に湯をかけ始めると、今度は五代に奪い取られる。 「駄目です。一条さんは、俺が洗うんです。」
楽しそうに笑う。駄々っ子のようだった。
五代は俺の全身に湯をかけて、丁寧に流していく。嬉しそうなので、止められない。
俺はふいを突かれ、止める間もないうちに、再び後門に触れられてしまっていた。 「五代…」 奪うことはできないくせに… 「…欲しい、んです…」 五代が囁いた。 「一条さん…だめ?」
冗談ぽく言うが、眼差しは焦げついている。 「五代…やめてくれ…」
弱々しい声で言うしかなかった。 「…いやです、と言ったら?」 「うっ…」
急にぐっと挿し込まれかけ、俺は逃れようとして、よろめいた。
「ごめんなさい…一条さん…嫌わないで…。 (馬鹿野郎…欲しければ、俺を奪え…) 伏せた五代の頭に僅かに頬を寄せ、髪にかすめるように俺はくちづける。 「一条さん…ヴァージンなの?」
五代の呟きが訊ねる。俺は首を振った。
「経験したことは、ある…。
あれが快感だったことは、一度もない。 「すみません…一条さん…身体が冷えてきちゃいましたね…」 五代は、もう一度、シャワーの湯を俺の身体にかけ始めていた。 (おまえ…優しすぎて…できないな、そんなことは…) その優しさが、どうかおまえを殺さないように…。 俺は目を閉じて、祈った。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
それっきり、五代はその話に触れなかった。
こんな男をクウガにしてしまったあの石を俺はまた恨み、その石のベルトを五代に渡した己を俺はまた呪った。
「明日、早いんですよね。 乱れてしまったベッドまで直して、五代は俺を呼ぶ。 「俺は…帰りますね…」 五代は服に着替え始めていた。後ろを向いた肩が寂しそうだった。 「五代…帰らないでくれ。」
俺はとっさに言ってしまう。 「…もう遅い。泊まっていってくれ。」
帰したほうがいいのかもしれなかった。
だが…それでいい。俺は揺れ続け、愛し続けていよう。 愛しくて…俺は笑った。 「そんな…顔されたら、俺…帰れない…」 俺を見つめ、五代が呟いていた。
「帰るな、と言っているんだ。 俺は、できる限りの明るい声で言う。 「一条さん…」 五代は迷い続ける。
「ただし、今夜はこれ以上、何もするな。 俺が決めつけると、とうとう五代が笑い出す。 「はい。」
五代は俺を愛しているから。 「五代…早く着替えてくれ。」
笑って急かしたが、服を脱ぎかけていた五代は、また俺に見とれ、手を止めてしまった。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
五代は、また躊躇いながら手を伸ばし、俺の頭を抱き取る。
なぜ…こんなに安らいでしまうのだろう、俺は。
それで…と、俺はまた考える。
それで…この愛を拒絶してしまうよりも、五代の生存の可能性は高くなるのか? (そして、これから…どうなる?)
戦闘の行く末を思い、思わず身震いしてしまう俺を、五代は僅かに引き寄せて抱きしめる。
「一条さん、俺は…もっと、強くなります。 静かに、五代が囁いていた。
「俺は、いつも見ている。俺は、いつも後ろにいる。 俺も、囁きを返す。
信じてくれ。
そうして…おまえは…何処まで行くのか… 根源の悲しみにまた捕らえられて、俺は恋しい名前を呼んでしまう。 「五代…」 「はい…」
僅かに深く、俺を抱き込みながら、恋人が応える。 「五代…」 「はい…」
用もなくて呼ぶのに、優しい男はいちいち応える。 「五代…」 「はい…」
伝えられる言葉は、何もない。
だが…必ず。 ふと思いついて、俺は言った。
「五代、明日脱いだパジャマは置いていけ。 「はい。」 幸福そうにため息をつく五代の、暖かい腕に抱かれ、俺は眠った。 (第3章:決意 完) |