揚屋から茶屋は勿論、切見世でも注文できる吉原遊廓のパーティー料理。 江戸薀蓄本やそれをパクッた(笑)web-siteによく書いてある「台の物=仕出し」ではありません。 古くは、でかいお膳の名称だったのが、それに盛られた、みんなでつついて食べる大皿料理みたいなものの総称になってゆきました。 享保以降は、専門の業者さんから出前をしてもらうのが主力になり、現代の「お通し」って言うか「テーブルチャージ」みたいな意味をもっていきます。 |
延宝〜天和(1673〜1684)頃 萬野美術館蔵 布団部屋と台所の図です。台所では魚が料理されていますが、捌き方が四条流なのは謎?(笑) 他にも、吉原を描いた浮世絵には台所が沢山登場します。 江戸後期、そして明治になっても、台所はけっこう大きな面積で存在しますし、文化・文政期にお椀を作っている図が幾つかあるのですが、現在のところ傍証がありません。仕出しを温め直したり、大きな注文だと出張があったような気もするのですが、いまのところ確証がありません。 台所部分拡大図 台の物 文政(1818〜30)頃 たばこと塩の博物館蔵 赤いやつが「台の物」です。お料理の量はちょびっと(笑) |
「台の物=仕出し」なんて書いてある江戸薀蓄本は、直ぐにブックオフへ売り飛ばしましょう(笑) 「台の物」って言うのは、元々はお料理を乗せる脚付きで朱塗りの大きなお膳で、そのお膳に盛り付けたお料理のことを呼ぶこともあるんですよね。江戸時代の食事は、武家も町人も基本的には箱膳(銘々膳)で、一人分ずつ別に並べられたちっちゃなお膳で頂きます。 気が短い江戸っ子でも、星飛馬のおとうさんみたいに、ちゃぶ台をひっくり返すことはできません。ってちゃぶ台が存在しないんです。でかい小さいの差はあっても、食べ物はお膳から頂くんです。 後期になって、テーブルもどきが登場するまでは、蕎麦屋さんでも、座って各々お膳から頂いていました。 台の物は、一人前じゃなくて、料理を何人か分盛り合わせてお出しする形式なんです。今の大皿のパーティー料理みたいなものを想像して頂けると当たらずとも遠からずって感じです。 では、吉原ではどうだったかと言えば、享保(1716-1735)くらいまでは廓内の揚屋も見世も、自前で料理を出しているところが多かったようです。一人前ずつ盛ってある料理の前に、ちんまり座っていては、どんちゃん騒げないので、みんなでつまもうよって感じなのが吉原での台の物です。 そこに出来たのが「喜の字屋」。享保説と元禄説がありますが、時代劇ファンな方なら山本陽子さん扮する「付き馬屋おえん(南原幹雄 原作)」を思い出す方も多いかもしれません。実際には、喜右衛門という人が、料理屋を角町で始め、評判がよかったので、台の物の仕出しも頼まれるようになったってのが、ほぼ定説になっています。喜の字屋を含め、吉原遊廓内にある仕出し屋さんが台屋です。 文化文政期(1804〜30)に入ると、お料理としての「台の物」は形骸化して、場代っていうか居酒屋やスナックの「お通し」みたいになってゆきます。乾き物ならまだしも、食えねぇ小鉢みたいな(笑)正に形だけの物なので、内容とは関係なく値段も見世によって一律でした。時代が下がると、廓内にあった鰻屋さんや蕎麦屋さんなどの食べ物屋さんから出前を取って、台に乗せるだけで値段が五倍くらいの「台の物」なんてのも、あったようです。 ぼったくり?ってか、まぁ原価500円くらいの、バナナとかパイナップルとかのくだもの切っただけの「フルーツ盛り合せ」が一万円以上したりするお店なんて今でもいっぱいある訳で、取り立てて阿漕な商売という訳でもありませんよね。 これもよく薀蓄本で見かける「一分台は、刺身、煮物、硯蓋、焼物の4種、2朱台は煮物と酢の物の2種」って言うのは、一例であって、見世の格や茶屋の格によって様々な内容と価格がありました。 でも、当然値段に見合った美味しいお料理が食べたいのが人情なんで、余裕のあるお客さんは廓の外から仕出し料理を取るようになったのですが、この双璧が皆さんご存知の江戸を代表する料理屋さん「八百善」と「田川屋」なんです。ちなみに八百善は新鳥越、田川屋は下谷大音寺門前で吉原からは直ぐの場所にありました。 江戸の後期、贈答・進物に「料理切手」が用いられていたことをご存知の方は多いと思いますが、吉原遊廓で使えるって事が、料理切手の流行に拍車をかけたんですよね。 現在では「台の物」は懐石料理の一品として扱われることもありますが、単に台に乗っているお料理(板敷きに乗った小鍋とか、鉄板焼きとか)だったり、飾りを施した盛り付けを呼ぶこともあるようです。 |
ビジュアルで贈る、新吉原! なんて、大したもんじゃないのですが<=おい!、 私がこのサイトで使っている、あるいは使おうと思っている図をまとめてみますね。もちろん著作権の存在しているものは避けています。 版権/編集権等が残存する出版物からの転載も基本的に避けていますが、どうしてもお見せしたい物は、「引用」として、明示しておりますので、是非原本にあたって見て下さいね。っで、買ってあげて下さい。でも、アマゾンさんのアフェリエイトはやっていないので(笑)、ご随意に。 また白黒の資料は「複写・転載自由自在 江戸時代風俗さしえ集」国書刊行会(ISBN4-336-03344-7)を使用しております。 |