モバイルギアが欲しい!

大学に入学して以降手書きでレポートを書いたことは一度もない。レポートを書くときには様々な資料を引用をして、それらを絡めた上で自らの考えを書かなければならない。そこで資料やら思いついた事やらをドンドンとワープロを用いて書き殴り、それらをつなぎ合わせて一つの文書にしてしまうのが入学以降の私のレポートの書き方だ。そこで、授業のノートというのは大変貴重な資料なので、学校の勉強に目覚めた昨年以降、ひっきりなしに手を動かしてノートを取りまくっている。講師の放つ言葉を脳味噌プロセッサ全開で処理し素早く書き殴る。板書された項目は赤ボールペンで、口頭による説明は黒ボールペンでドンドンと書いて行く。勿論、話のスピードに手が着いて行けるはずもないので、そこは処理能力の見せ所である。実際にそれらを漏らすことなくきちんとした文章で書いていったとしても、90分の講義でA4裏表で十分なくらいの量である。

さて私はキーボードの入力はワープロ検定など受けたことはないが特打によると450点オーバーが出せる程度で、手で書くよりずっと速い。そうだ、じゃぁ授業にノート型コンピュータを持ち込んだらレポートを書くときにいちいち打ち直す必要が減ってくるじゃないか、と考えた私は颯爽とPentium75搭載ノートを授業に持ち込み、それでノートを取っていくことにしてみた。カタカタカタカタとキーボードを打ち鳴らし、「オォ、軽快だ!今まで自らの筆記速度の限界に挑み自分以外見られないような文字を書いていたのとは雲泥の差がある!板書された項目を太字にしていく手間を考えても手で書くよりは256倍楽だ!」と感じていた。所が、授業が終わる5分ほど前、ビーっと私の手元から音がする。何だ何だ!壊れた?いや違う、バッテリーが切れたのか!何て事だ!その日の2講目以降はノートはタダの肩こり養成用の重りと化してしまった。アダプタを持ってくればどうという問題ではない。殆どの教室ではコンセントから机まで相当の距離があり他人に足でも引っかけられた日には涙も出ない。また、色々と最新のWindows搭載ノートの情報を調べてみたが、90分*4時間の利用に耐えられる様なノートなど無いようだ。アァ、講義と私とレポートが有機的に結合したサイバーペーパーレス履修計画は90分で頓挫してしまった。

ところが、ある日日本橋を闊歩していて見つけたのがWindowsCE搭載マシンの「モバイルギア」と「カシオペア」。白黒モニターだが何かWindows95と似た雰囲気のGUIが画面上に写っていた。試しにキーボードをカタカタと叩いてみたら、モバイルギアの方が少し打ちやすい印象があった。日本語FEPもそこそこには賢いようだがこんなのを誰が買うのだろう?外へ出てまでコンピュータでデータを集めたり、メールを読んだり、文章を書き留めたり私はしないよな、と考えていた。が、数週間経って、あれらWindowsCEマシンはバッテリーの持続時間が凄く長いという記事を何かで目にしたときに、忘れかけていたサイバーペーパーレス履修計画が脳裏に蘇ってきた。そうだ!モバイルギアを使ってノートを取れば良いんだ!よしそうと決まれば先ずは情報収集だ。NECのウェブサイトからモバイルギアを探していると、ん?比較的大きなキーボード付きモデルを発見。バッテリー持続時間は何と驚異の8時間と有るじゃないか。値段は100,000円弱か、止めたアルバイトをまた始めたとして、一月に3万円ずつ余らせて約3ヶ月ちょっと。ムムゥ!買えそうだ!そうなるとデータ転送用に今のデスクトップマシンの方にカードアダプタも欲しいな、ということは4ヶ月ほど禁酒禁煙金外食禁クラブをすれば買えそうだ!残りの学生生活はモバイルギアと共にサイバーパーフェクトペーパーレス履修学生となってやる!と考えてみたところ、私の学生生活はもうそれほど残ってはいないことに気が付いた。モバイルギアがストイックな生活の賜物として手に入ったとしても、残り数ヶ月しか授業を受けられない立場だったのだ。どちらかというと講義の内容をこの肉体の頭脳にしみこませるという本来の目的よりも、サイバーで世紀末的な学生を演じることが出来なくなってしまったことが悔しい。モバイルギアで授業のノートを取ってアァこれが20世紀だという実感を得たいと思ったところでそれはかなわぬ夢だったようだ。

1999.05.15

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