最新型録音機材の勘違い

RolandがVS-880というハードディスクレコーダーを発売してから、デジタル式のマルチトラックレコーダがアマチュアミュージシャン&録音家の間でも大人気だ。また、多くの人がDATというCDクオリティーで録音できるカセットテープを最終的に仕上げた作品を録音するために用いている、あるいは欲しいと思っている。これらのデジタル録音機材は昔から存在はしていたわけだけれども、ものすごい値段が付いておりアマチュアにはなかなか手が届くモノではなかった為に、多くの私のようなアマチュアミュージシャンはカセットテープを用いたマルチトラックレコーダを用いたり、最終的な録音もカセットデッキを用いていた。

そのころ、「やっぱりカセットだと音が悪くて折角いい音を作っても台無しになっちゃうよな、やっぱりデジタルレコーダ欲しいよな」なんてよく言っていた。いかにしてカセットでいい音を録れるかが腕の見せ所でもあり、余計な手間でもあったのだ。ところが最近カセットタイプのおおよそ2倍のトラックが使え、256倍ほど原音に忠実に録れて512倍の編集機能を備えるようなハードディスクタイプレコーダが我々アマチュアにも手に入る値段で発売され、DATも安くなってきた。夢のような機材が手に入る!私にも買える!これで私の作品もプロレベルに!と喜び勇んで購入した後に大きな大きな勘違いが有ったことに気が付いた。ごくごく当たり前なことだけれども、レコーダは「原音を忠実に録音する」だけの機械で、それがフレーズを考えてくれたり楽器を弾いてくれたり元の音を良くしてくれるわけではなかったのだ。「良いレコーダを買えば凄く良い曲が出来そうな気がする」と、口に出しては言わないまでもそのように思いこんでいた節が有った。まるで良い鉛筆が有ればパースが正確に取れるようになるとか、良い靴を買えば足が速くなるとか、最新型コンピュータを買えば人間の頭の回転まで良くなるとか、そういうレベルの勘違いを思いっきりしていたことに気が付き、広告と機材の持つ魔力を思い知ってしまった。

しかしこういう思いこみをしている人は私だけではないだろう。これを読んでいるアナタもShadeを買うとテライユキ並の女の子が描けそうだとか、Office2000を手に入れると自分の会社もマイクロソフトの様になりそうだとか、Dreamweaverを買うと沢山のヒットを生むウェブサイトが作れそうだとか、そういうことを考えてない?それは豪快に大きな間違いで、でも実際に買って使ってみるまでそれが間違いであることになかなか気が付かないから困ってしまう。というより、買う前にそんなことを考えている時間が凄く楽しくて楽しくてたまらないから困ってしまう。で、その楽しさ故に色々買っちゃってはアレ、こんなはずじゃなかったのにと思うのに楽しくて止められないから困ってしまう。

私ですか?グランドピアノとProToolsを買ってくれたら来年度のグラミー賞は間違いないですよ。

1999.05.11

目次 || 一つ進む
[email protected]