トラッド革命
アコーディオンと笑顔
若き天才集団・スーパーバンド
名演満載の企画アルバム
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Donal Lunny / Paddy Keenan / Micheal O' Domhnaill Triona Ni Dhomhnaill / Matt Molloy / Tommy Peoples / Kevin Burke
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現在のアイルランド音楽シーンにおける最重要人物、ドーナル・ラニーがメンバーとして参加したグループすなわちプランクシティ('73〜'74、'79〜'83)、ボシー・バンド('75〜'78)、ムーヴィング・ハーツ('81〜'85)はそれぞれの時代において革新的であり影響度は絶大であったと思われるが、なかでも伝統音楽に大胆なリズムアレンジを施し、再構築するための解釈と方法論を確立したボシー・バンドは現在も多くのバンドの標榜となり続けていると言える。何せ今でもイキのよいトラッド・グループが登場すると「ボシーの再来」とか「ボシー級」とか表現されるくらいだからその存在の大きさが推し量れる。 メンバーはD・ラニー(ブズーキ、バウロン他)以下、パディ・キーナン(イリアン・パイプス)、ミホール・オ・ドーナル(現ナイトノイズ/ヴォーカル、ギター)、トゥリーナ・オ・ゴーナル(現ナイトノイズ/ヴォーカル、ハプシコード他)、マット・モロイ(現チーフテンズ/フルート他)、トミー・ピープルズ(1stのみ/フィドル)、ケヴィン・バーク(2nd以降。現パトリック・ストリート/フィドル)と現在参加しているバンドからしても凄いメンバー。フィドルのトミー・ピープルズも現在はクレアに篭って活動しているがアイルランド最高のフィドラーと称される人物である。 ボシー・バンドの魅力はまずジグやリールのインストにおける斬新なリズムアレンジ。元はメロディー楽器であるギリシャの民族弦楽器ブズーキを改良し、カッティングによるパーカッシブなプレイでギターとともに躍動感と高揚感を醸し出し、リード楽器の卓越したユニゾンプレイを一層、際立たせる。またメドレーにおける曲展開(アイルランド音楽における常套手段)においても、その組み合わせの妙においてトリッキーな急展開をこれでもかと見せ付ける。 演奏面だけでも唯一無二の存在であったボシーはさらにトゥリーナ&ミホール姉弟による女性ヴォーカルと男性ヴォーカルの二枚看板まで備えていたから凄い。怒涛のダンス・チューンに分け入るハプシコードのバッキングを取り入れた幽玄でもの哀しいヴォーカル曲は一層栄えることとなる。 ボシー・バンドが活動中に発表したアルバムはオリジナルが3枚。ライブアルバムが1枚。いずれも傑作だがとりあえず聴いてみるならバンド最終期のパリ公演を収録したライブ盤をオススメする。 |
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シャロン・シャノンは1968年生まれの若手女性アコーディオン&フィドル奏者。類い稀なる演奏能力と音楽的センスと許容範囲とバランス感覚を持ったプレイヤーである。デ・ダナンから独立したジョニ−・マクドーナが結成したアーカディーに参加するもバンド・デビュー前に脱退しスコットランド出身、ロックからトラッドに転身しつつあったウォーターボーイズに合流。正式メンバーとしてアメリカツアー、レコーディングに参加する。その後、様々なアルバムやツアーに参加しながら現在までに3枚のソロ・アルバムを発表している。 91年に1st「シャロン・シャノン」発表。名うてのプレイヤー、ドーナル・ラニー、モイヤ・ブレナック、スティーブン・クーニ−や同世代のリアム・オ・メンリィ、ウォーターボーイズの面々、U2のアダム・クレイトンまでを向こうに回し、シンプルなスタイルでアイリッシュ・トラッドのみならずケイジャンやポルトガルのトラッドまで軽快なプレイで小気味よく披露している。 1stで見せた音楽的守備範囲を保ちつつ更にコンテポラリーなスタイルを推し進めたのが94年の「アウト・ザ・ギャップ」。バンド・メンバーをほぼ固定し、ドラムスやホーンも配し、12曲中5曲にレゲエ・ダブの手法によるプロデュースを取り入れ、伝統音楽を完全に現時代のものとしてしまった。 96年、ドーナル・ラニーによるプロジェクト「Common Ground〜魂の大地」に参加。ここでもレゲエに通ずるアレンジを施したナンバーを披露している(私はこの曲にヤラレました)。そしてドーナル・ラニー・バンドの一員として来日、こぼれるような笑顔で楽し気にアコーディオンを操る姿はとても可愛かったっす。 97年、1st、2ndでのメンバー、更にドーナル・ラニー・バンドの面々の参加で「イーチ・リトル・シング」発表。トラディショナル・ナンバーが何の違和感もなく現代の音楽としてその魅力を発散するシャロン・シャノンのスタイルはほとんど完成の域に達している。それでもフリードウッド・マックのナンバーやヨー・ヨー・マで有名になった(日本だけか)ピアゾラの「リベルタンゴ」を取り上げるなどどん欲な好奇心は留まるところを知らないようである。 色々と述べてきましたがシャロン・シャノンの音楽は一言で言ってしまえば、彼女の笑顔同様とにかく屈託がなくて可愛らしいです。ハイ。 <加筆> |
Sean Smith / Donogh Hennessy / Trever Hutchinson John McSherry / Mike McGoldrick / Kevin Crawford
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英米ロック界では実力実績のあるミュージシャン達が集結/結成したバンドは「スーパーバンド」と呼ばれる。現在のアイルランドトラッド界において常にその「スーパーバンド」の名を冠して呼ばれているのがこのルナサである。 メンバーはアルタン、チーフテンズとの共演もあるショーン・スミス(フィドル、ホイッスル)、シャロン・シャノン・バンドのドノ・ヘネシィ(ギター)、ウォーターボーイズ、S.シャノン・バンドを支えたトレヴァ−・ハッチンソン(ベース)、ドーナル・ラニー・バンドやニ−ヴ・パーソンズのバックバンド、ルース・コネクションズなどセッションに引っ張り凧のジョン・マクシェリー(イリアン・パイプス、ロウ・ホイッスル)、Toss The Feathers、Flook! というバンドでも活動するマイク・ゴールドリック(フルート、ロウ・ホイッスル、イリアン・パイプス)。この確かな実力と多彩なバックグラウンドを持つ5人のメンバーで98年1st「LUNASA」を発表。ボシーバンド直系とも言えるスリリングな演奏でジグやリールを展開、またエアーやユダヤの民族音楽であるクレズマーをしっとりと決める。全く隙のないこのアルバムは11曲中7曲がライブ録音であるのも彼等の実力と自信の程が窺える。バンドの中心人物、S.スミスもボシーの影響を明言しているがルナサの特徴はT.ハッチンソンのウッドベースとパーカッシヴなD.ヘネシィのギタープレイにあると言える。「ひとつのチューンを繰り返し演奏して、グルーヴを生み出す方法を探る」というS.スミスの言葉が全てを語っている。 99年、アメリカ最大手のケルト系レーベル「グリーンリネット」と契約し、2nd「Otherworld」をリリース。全てスタジオ録音でさらに完成度を増したこのアルバムはアメリカでも大絶賛されている。尚、2nd ではM.ゴールドリック、J.マクシェリーは大半の曲に参加しているがゲストミュージシャンとしてクレジットされ、バンド最初期に参加していたム−ビング・クラウドのケヴィン・クロフォード(フルート、ホイッスル、バウロン)が参加、メンバーとしてクレジットされている。 ●LUNASA official site(英語) |
Donal Lunny/Dolores Keane/Mick Moloney/Philip Chevron/The Everly Brothers/Hothouse Flowers/De Dannan/Emmylou Harris/Mary Black/Paul Brady/Sharon Shannon/Mary Cursty/Luka Bloom/Elvis Costello/Davy Spillane/Maura O'Connell/The Waterboys/Liam O'Flynn etc.
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1991年、BBCとアイルランド国営放送RTEで共同制作された音楽ドキュメンタリー番組「ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム」での演奏をまとめたCD。オリジナルは91年に2枚組全37曲でリリース、2000年に一部の曲を差し換えたデジタルリマスターで再発。アメリカではへんてこなジャケットで3枚に分けてリリースされている。 とにかく収録アーティスト、内容の幅広さがハンパぢゃない。まずプロデューサーでもあるドーナル・ラニーのバンドによる現代的リズムアレンジのテーマ曲に始まり、ミック・ハンリーが自作のイミグランドソングをドロレス・ケーンとデュエットし、続いてそのドロレスが歌を習ったという彼女のおば2人(リタ&サラ・ケーン)の無伴奏の歌唱、アメリカに渡ったアイルランド移民がもたらしたといえるカントリータッチの曲、移民した息子から来る手紙の内容を綴った名曲「キルケリー」、フィリップ・シヴェロンのポーグス時代の曲の再演、The Hughes' Band を名乗るメンツはD.ラニー、アダム・クレイトン(U2)やウォーターボーイズのS.ウィックハムにアレック・フィン、シーン・ライアンらトラッドの一線級プレイヤー、エバリーブラザース、ホットハウスフラワーズのトラッド曲(名演!)と来てデ・ダナンのゴリゴリトラッド、再び登場のドロレスはなんとエミリー・ハリス、メアリー・ブラックと共演、ポール・ブレイディの熱唱with ドーナル on ブズーキ、シャロン・シャノン&メアリー・カースティのハジけるような演奏、メアリー・ブラックが出世作「ノー・フロンティアズ」を歌いあげ、アイリーン・アイヴァースとの共演で渋く歌うルカ・ブルーム。これでようやくDisc1が終了。Disc2は簡単に行きます。現代のトラッド復興に功績のあったショーン・オリアダの息子パダー作曲の聖歌隊風楽曲、17世紀の同国の偉大な作曲家・ハーピストのオキャロランの曲、オーケストラアレンジの曲があって、エルビス・コステロはトラッドのメロディを基にしたという自作曲を披露、イリアンパイプスのいまや第一人者デイヴィ・スピラーン、パディ・グラッキンらのトラッドに挿まれてリチャード・トンプソンとM.ブラック、D.ケーンの共演、モーラ・オコンネル貫禄の歌唱、ウォーターボーイズはシャロン在籍の「Room To Roam」録音時に参加曲を録音、ヴォイス・スカッドの重厚なコーラス曲があってリアム・オフリンの泣きのパイプで締め。 これからアイルランド音楽を聴いてみようという人には内容の濃さにクラクラきてしまうようなアルバムです。でも色々なアルバムを聴き進めていくうちに時々この作品に帰ってくると分かることがたくさんある、そんな1枚いや2枚組です。 映像版について |
私の所有するアイルランド関連のCDについては「'disc'graphy」のコーナーへ
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