ひとびとの話 その5
00/11/06

攻撃は・・・(前編)

なにやら身内ねたばかりになって申し訳ないのですが。

今回登場するのは,義理の母。先日お話したわけのわからない注意書きを送ってきた脳天気義理父の,伴侶,な訳なヒトのお話です。

義理父が180センチの背を誇るのに比べ,義理母のほうは全体に小さい。155センチあるかないか位の身長で,細くて華奢な感じのヒトです。

こう書くと,なにやら義理父がどんと構えていて義理母がそれに寄り添ってる,みたいな美しい図を思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれませんが,人生そううまくいくわけがない。
気は回らないが万事鷹揚な義理父に対して,義理母はとにかく気が強い。嫌味なカンジはないのですが,とにかくどうしようもなく威勢がいい。大ボケこく義理父を怒鳴り倒し,「なにやってんのよ,アタシについてきなさいよ!」って感じで手綱を取ってしまうんですね。
あねご肌で,困ってるヒトを見ると黙ってられない。まるで昔の江戸っ子姐さんのようです。生まれは東京じゃないんだけど。
さっぱりしてて,頼りがいがあって,ちょっとうるさいのを我慢すれば,非常にいいヒトなんです。なんですが。

元気のよすぎるのも困ることがあるんです。

その日,わたしと同居人,そして義理父母の四人で,横浜の某チェーン店のハンバーグやさんに出かけたんですね。このハンバーグやさん,ラグビーボールのようなハンバーグを炭火で焼いて,お客さんところに運んでからじゅうじゅう切り開いてソースかけるのがウリの,地域では結構名前の知られたお店です。

高速出口の近くという立地条件上,ターゲットはクルマのお客さん。当然わたしたちもクルマで行ったのですが,土曜日の夕食時,必殺大混雑でありました。
駐車場待ちの列にクルマを並べ,同居人を置き去りにし,とりあえずお店に行って席取りでもしよう,と義理父母とわたしは三人でごった返す駐車場を横切っておりました。

店の入り口までもうちょっと,というときです。

強引に移動しようとしていたクルマ同士が小競り合いのすえ,接触したんですね。
クルマもヒトもごったがえしているわ,腹減ってるのにいつになったら食事にありつけるかわからないわ,というその上に,そのぶつかったクルマのドライバーには,更なる悪条件が重なっておりました。

彼ら二人とも,彼女連れ。

「ここのレストラン,横浜でも結構有名でさぁ,うまいんだよ」
なぁんて甘い言葉でせっかく女の子連れてきたのに,状況は最低。
イライラが募るのもよくわかりますよね。

でもこれはいけない。かれらはともにクルマを降りると,今にも殴りかからんばかりの調子で怒鳴りあいをはじめたのです。
身動き取れないくらい混んでいた駐車場だったのに,てめぇ,なにしやがる,なんて怒鳴ってるかれらのまわりだけ円形に隙間が出来ました。わたしも脇にどいて,暇なのもあるし,ああら,どうなっちゃうのかしらんと高みの見物を決め込むことにしたその矢先,です。

「あんたたち何やってるのよ,迷惑でしょ」

ちょっと待ってくれよ。なんでアンタが出て行くんだよ・・・?

そうです。さっきまで隣にいた義理母が,いつのまにか,怒りに顔を真っ赤にしている野郎二人の間に入って怒鳴り倒している。
怒鳴ってみたって,どう考えたって野郎二人のほうが義理母より頭ひとつでかい。
義理父は相変わらずわたしの横にいて,「あ〜あ,あいつは野次馬だから」なんてのんきにつぶやいている。
ひょっとして頼りになるかもしれない同居人は,ずっと遠くのクルマの中。

「すっこんでろばばぁ!」
異口同音の野郎二人の怒鳴り声に物怖じせず,義理母はなおもがんばり続けます。
「おとうさん,あれやばいっすよ」
義理父に言うと,義理父は「そうかぁ・・・?」といいながら,さすがに近づいていきます。からだもでかくて,なんとなく落ち着いてそげにみえる義理父,一発かまして母を奪回して来い,と思ってましたら,間に入った義理父,野郎二人の肩に手を乗せ,場違い極まりない微笑を浮かべて,

「まぁ,きみたち,きみたちももうおとななんだから,冷静にならなきゃいけないよ」

んなもんでとまるもんなら苦労はしない。
案の定,野郎二人とその上なぜだか義理母にまで義理父はにらまれる羽目になり,さらに肩に乗せた手を叩き落とされたのです。

「よくないな,きみたち。もっと紳士的にならないと」

まだ言ってる義理父を荒っぽく野郎のひとりが脇にどけ,義理父おとなしく退散。

後に残ったのは,さらに怒りを膨らませた野郎二人と,いまだ間に入って,どう考えても喧嘩をあおってるとしか思えない義理母。

野郎のひとりがついに腕を振り上げました。相手もやる気で間合いを詰めます。義理母はまた強引にその間に入り,

「殴るんならアタシ殴ってみなさいよ」

とこう。

義理母。甘いよ。連中ホントに切れちゃってるんだから。殴れなんていったら殴っちゃうよ。ほら,胸倉とられちゃって。あ〜あ,それでもがんばるし。義理父は?あれ,居ないし・・・。これだけヒトが見てるのにどうして止めてくれないのよ。でっかい男連中だっていっぱい居るじゃんよ。だいたい,こいつらの彼女何やっとるんだ。おめぇら出てきて止めろよ。

とにかくあんなんに殴られたら義理母は絶対に壊れてしまう。気合はいってたって華奢のものは華奢なんだし。

・・・・ちくしょ〜。しょうがねぇ・・・。
(続く)

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