ひとびとの話 その4
00/11/06

父からの手紙

先日ちらりと言い訳に登場した父の話である。

楽しいオフ会に電話かけてきて呼び返した挙句、再び横浜まで送らせた、あの父である。

実の父ではない。義父というヤツである。実の父に比べればやや自由度はあるのかもしれないが、一応積極的な選択をして父になってもらった人ではない。積極的な選択に付随してきたシロモノである。

一見、なかなかに紳士然としている。年齢にしては珍しく180センチオーバーの身長を誇り、やや腹は出ているものの一応スマートな体型を維持している。長いサラリーマン生活で鍛えられたスーツの着こなしは決まってるし、頭髪も健在でいいカンジのロマンスグレーとなっている。

ただこのヒト、大ボケである。

下手をすると自己中なわがまま男ととられがちの行動をするが、どうもこれ、なぁんにも考えていないことに起因するものらしい。

たとえば、である。
田舎にいって畑仕事や庭仕事をしているとき。
ホワイトカラーを自認する父は、ちょっと働くとすぐにネをあげる。
そしてウチの中に入ってくるわけである。
わたしは、畑仕事については戦力外通知を受けているため、ウチの中担当になっているのだが、大人数分の夕食の仕込とかあったりしてそれなりに忙しい。
その台所にやって来て、彼は、「あぁ、コーヒーが飲みたい」とのたまうのである。
テーブルの上にインスタントコーヒーが置いてあるだろ、あ?
・・・などとはとりあえずいわず、ことさら忙しそうにして見せながら、あ、お湯沸かしなおしましょうか、なぁんて声をかけて見る。すると彼はニコニコと微笑みながら、
「せっかくおまえ(=嫁。わたしのこと)がいるんだから、レギュラーコーヒー淹れてもらおうかな」。
はいはいはい。
わたしは仕方なく魚のはらわた抜きを中断し、冷蔵庫を開けて、コーヒー豆の缶を開ける。
「あ、おとーさん、豆が少ないや。ちょっと買ってきますから、コーヒーはみんなでお茶するときにしませんか」
田舎は結構規則正しく、4時過ぎにいったんお茶をする。今、3時45分。今日はもらい物のケーキがあるからどうせコーヒーは落とさなきゃならない。

それまでにクルマ出して、スーパーに行って豆買ってこなきゃいけない。
・・・もしかして、買ってきてくれないかなぁ・・・なんて甘い期待がわたしの脳裏を一瞬よぎった。

しかし、父は言う。
「え?ないの?ひとり分くらいあるだろ?」

あーはいはいはい。
とにかく自分の飲むコーヒーがいま出てくりゃいいのである。
外で働いてる連中のことなんか、きっともう覚えてないに違いない。

なんかやなヤツみたいに感じるかもしれないが、意地悪なんではない。本当に、何も考えてないだけなのである。だからどうにも憎めない部分があるのだが。

この父が、珍しく自分で物を考えて行動したことがあった。
かなり昔、わたしたちが一年半の海外生活を終え、日本に帰国する間近、何を思った知らんが、人生の先輩としていっておくことがあると大書した手紙を送ってきたのである。
母たちはそれなりにいろいろ連絡をとってきていたが、父は珍しい。それも人生の先輩と来た。一体何が書いてあるのだろうとわたしたちは興味深々で文面を開いた。

もう昔のことなので、正確には覚えてないのだが、こんな内容だった。

「・・・おまえたちにも社会的な立場と言うものがあることを忘れないように。また、我々親のこともよく考えて欲しい。アメリカでの生活は自由であったと思うが、日本に帰ってくるのだから、日本の社会にきちんと順応しなければならないことをきちんと認識すること。あくまでおまえたちの良識を信用するが、帰国にあたってこれだけは言っておく。

 

くれぐれも、銃器や麻薬は持ち帰らないように。」

 

だからさ、そんなもん持ってないっつーに・・・

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