俺はストーンズの曲は有名な曲しか知らない。それでも偉大なロックンロールスターの姿をこの目で見なければいけないような気がして、いつのまにか俺は横浜アリーナにいた。旅行好きを自称する俺が初めてインドにいったときに、いきたいというよりはいかねばならない、と思った時の心境にちょびっと似ている。これだけみんなが良いといっているものに潜む魅力をこの体で体感しよう、とつまりそういうことだと思う。それはさて置き、俺の席は8列目。どうひいきめに見ても極上の席だ。横浜アリーナの巨大なステージはまさに目の前。横にはアルフィーの高見沢がいる。最後尾の人たちは蟻以下の大きさだ。「ざまーみろ」と自分が偉いわけでもないのに優越感に浸ってみたりする。たまたま、会社でいけなくなった人が社内掲示板で売りに出していたチケット。8列目という極上チケットでなければ、手を挙げなかったかもしれない。何はともあれ、俺はいまローリングストーンズのライブの8列目にいるのだ。興奮に包まれる開場で、予定時間を30分過ぎても始まらないロックンロールショーを、意識的にあまり期待せずに待つ、待つ、待つ。開場にはマディー・ウォーターズなど、スタンダードブルースが流れ、その曲が終わるたびに開演かと開場から拍手が起きるが、期待を裏切り次の曲がスピーカーから放たれる。こんなことを10回ほど繰り返しただろうか。ビッグな奴等は、人を待たすなんて屁でも思っていない。それがビッグというものだ。そんなことを思っていたら、突如ブルースミュージックはフェイドアウトし、開場は暗闇に巻かれた。
演奏は前触れもなく一気に始まった。ステージの奥から顔の小さい白髪のギタリストが一人現れ、すぐにミック・ジャガーその人が飛び出してきた。僕の目の前に、ミック・ジャガー、キース・リチャーズ、ロン・ウッド、(チャーリーは僕の場所から見えづらい)その人たちが、目の前に、まさに目の前に。その圧倒的な存在感に、これまで正直に言ってローリング・ストーンズの本当の良さを理解してこなかった自分を後悔した。シンプルな演奏でロックンロールナンバーが俺に突き刺さる。聞いた事はあるが、曲名は知らない。でもそんなことは関係ない。後ろの人は「ストリート・ファイティング・マンか!」といっている。圧倒的な存在感に一発でK.Oされた俺は、彼らの動きに、演奏、表情、全てに釘付けとなった。後ろの大きなモニターに映し出される映像は、しょぼい席に座ってる奴等用だ。俺は、肉眼で彼らの表情を、口の動きを、ギターのコードを見る事が出来る。もう、すでにローリング・ストーンズの虜になっていた。初めてロックを見た、そんな気がした。圧巻は、メインステージから延びる通路の先にある、アリーナ中央のBステージでの3曲だった。.Manish Boy・When The Whip Comes Down・.Brown Sugar。小さなステージで繰り広げられる演奏は、まさにライブ。ライブハウスで演奏しているような、最高の絵だった。狭いステージにひしめき合うように立つストーンズがもつ、ロックンロールバンドとしての本来のスケール感はこういうシチュエーション以外で見る事は出来ないだろうと感じた。ビッグショーではなく、ライブバンドとしてのベストなスケール感。僕は、Bステージの彼らは後からしか見られなかったが、他の17曲分を犠牲にしても、Bステージ直下の席と替わってあの3曲を目の前で聴かせて欲しい、と心から思えるすごい絵だった。アンコールはお決まりのJumpin' Jack Flash。ああ、ミックジャガー様。僕はもうあなたの虜です。
ライブは終わり、俺はストーンズおたくのロックな上司と飲みにいき、思う存分ロック談義を交わした。次の日からウォークマンでストーンズを聞きながら営業する毎日なのだが、だめです。だめなのです。どうしても、どうがんばっても、チャーリーのドラムのリズムに合わせた歩調となり、両肘があがり、人差し指は空を指し、口が尖がって「おーぅ、いぇーえ」と言ってしまってる俺がいる。すっかり、にわかなりきりミック。次に皆さんに会うときは、きっともっとストーンズにかぶれた僕がいる事でしょう。長くなりましたが、要するにローリング・ストーンズは最高だった。そういうことです。それでは、さようなら。
2003/03/12
Rolling Stones Live @ 横浜アリーナ Setlist
1.Street Fighting Man
2.It's Only Rock'n Roll (But I Like It)
3.If You Can't Rock Me
4.Don't Stop
5.Monkey Man
6.You Got Me Rocking
7.Ruby Tuesday
8.Loving Cup
9.All Down The Line
10.Tumbling Dice
11.Slipping Away
12.Happy
13.Sympathy For The Devil
14.Start Me Up
15.Honky Tonk Women
16.(I Can't Get No) Satisfaction
17.Manish Boy<B Stage>
18.When The Whip Comes Down<B Stage>
19.Brown Sugar<B Stage>
<Encore>
20.Jumpin' Jack Flash