on and on / Jack Johnson
人間が作り出すものは、住んでいる環境におおいに影響を受ける。あったかい国に住む人たちはカラフルなものを作るし、さむい国に住む人々は灰色がかったものを作る。ブラジルの人は気違いみたいな色づかいの服を着るし、ロシアの人はねずみ色とかダークグレーとかモスグリーンになってしまう。あったかいと色がカラフルになるのは人間だけではない。熱帯魚だってそうだ。寒いところにカラフルな魚は泳いでいない。花だってそう。不思議だけどそういうことになっているのだ。
そういう観点で見ると、Jack Johnsonが奏でる音楽は圧倒的に「あたたかい国」で作られたものだ。音に日光がたくさん含まれている。いつもBrightで、いつもHappyだ。夜の闇のなかでささやくような歌もたくさん入っているけれども、それも次の朝に必ず登ってくるお日さまを前提とした、ひとときの休息のような闇でしかない。そんな闇のなかでささやくような歌にも、確かにお日さまの存在感を感じる。悲しみを歌ったような歌もあるけれど、明日がくればどうにかなるさ、といっているような気がする。だから、彼の歌とギターを聴いていると心が安まる。南の島に来たような気持ちにさせてくれるJack Johnsonの音楽を、僕は「楽園系」と呼びたい。
Jack Johnsonはハワイのプロサーファーから転身したという、変わった経歴をもつアコースティックのギタリスト。最初はインディーズでレコードを出したらしいのだけど、口コミで人気が広がってメジャーからデビューすることになった。今はベン・ハーパーやG.Love & Special Sauceとの交友が深いようで、彼等と同じ種のグルーブを確かに感じることが出来る。ちなみに僕はベン・ハーパーもG.Love & Special Sauceも大好きだ。だから、英会話の教師にJack Johnsonを薦めてもらった時に、抵抗なくそれをレコード屋で買うことができた。
心地よいリズムを刻む彼のギターをヘッドホンから確認した時、僕は思わずにやけた。「これはいけてるぞ」。あまりに心地よいギターはまるで、アコースティックギターはこうやって弾くんだよと言わんばかりだ。和音を奏でられ、メロディーさえ弾くことの出来る最高の打楽器を手に入れたJack Johnsonの音楽はあくまで心地よく、リズムを、グルーブを作り出す。黒人ギタリスト、キザイア・ジョーンズの「Million Miles from Home」という曲があって、その曲を聴いた時に初めて感じた、白人や日本人には絶対出せない圧倒的にかっこいいグルーブをと同じ種類のものをJack Johnsonも持っている。これはかなりお勧めだ。本当は夏の間にこのアルバムに出会いたかったけど、このアルバムなら冬に聴いても、ある種の楽園を僕に感じさせてくれるはずだ。
彼が暗くてちょっと広い部屋でギターを弾き語り、僕らはビールを片手にそれを聴き、ゆらゆらと踊る。踊りながらビールを飲む。ランプの光は、暗い部屋にゆらゆら動く僕らと彼の影を映し出している。そんな幸せな光景が脳裏に浮かんだ。Jack Johnsonってそういう感じ。そういう風にして聴きたい。と思う感じ。外には波の音が聞こえるわけよ。そういう感じ。