5月23日 日曜日 日の沈む国より
僕のホームページでも連載を続けていた「もりプー」こと森口氏が、日の沈む国・モロッコから帰国した。ちなみに連載名の「日の沈む国」というのはモロッコの別名を和訳したものである。イスラム諸国の最西端にあるモロッコはアラビア語で「マグレブ」と呼ばれ、その日本語訳が「日の沈む国」なのである。この和訳はあきらかに「日のいずる国=日本」に合わせたものであり、そういった意味でも日本にとってモロッコというのは日本と正反対にある国なのである。そのモロッコからもりプーは帰国した。もりプーは、僕の九州芸術工科大学時代の同級生であり、入学当時から最も仲良くしていた人物の一人である。特に大学院に通っていた最後の2年間は、僕の実家の目と鼻の先に彼は一人暮らしをしていて、夜に暇になると隣のアパートの一階にある彼の部屋のベランダ側から「おい」と声をかけて、彼の愛読書である週刊プレイボーイを読みながら、芋焼酎「白波」酌み交わしたり、ギターを手にとって曲を作ったりしたものだった。なぜベランダ側からかというと、明かりがついているかいないかを確かめて、居留守を使われないようにするためである。そして僕はベランダ側から上がり込み、ベランダから去るのである。「おまえ、ちゃんと玄関からこいよ」といつも嫌がられたが、これが僕の訪問スタイルとして体に染み付いてしまったのだからしょうがない。僕と彼の青春の縮図のひとつであったと僕は思っている。 さて僕がいうのもなんだが、彼はお世辞にでも出来のいい学生ではなく、学業も友人の助けを借りてぎりぎりで単位をとって、ようやく進級するタイプだし、酒は大量に飲むは、煙草はばかばか吸うわ、飯は噛まずに飲むわで見事に太っていて、100kg級のデブのくせにロマンチストだし、すぐつまらない嘘をついて人の気を引こうとするし、お調子者のくせにすぐにへこむし、一見ではいいところがないからか、就職も決まらずアルバイトのようなことをしながら、卒業後は暮らしていたのだけど、ある日突然連絡があって「俺、海外青年協力隊にうかったっちゃ」と言われ、明日、成田空港から旅立つという彼を2年前の夜、銀座で送り出したのは、なんだかつい最近のことのようでもある。もりプーの帰国にあたり、僕は東京にいる同じ大学の卒業生に可能な限り声をかけたら15名ほどが集まった。これも、彼の人徳であろう。上にぼろくそにかいたが、もりプーはいいやつなので敵はいないし、仲良しもたくさんいる。仮にも愛されるキャラクターなのである。彼のアイデンティティである贅肉は、アフリカ大陸の過酷な?生活でそぎ落とされ、ぐっとスリムになっていた。おまけに現地での生活で、アラビア語とフランス語をマスターし、そのうえ現地で日本人の彼女までこしらえて帰ってきた。もりプーの「一発逆転」である。モロッコでの生活がどのようなものだったかは、連載中からの文章からかいま見られるが、なんとも充実した2年間ではなかったのだろうか。とにかく、彼が無事帰国して、また僕達のいる日本で暮らしはじめるのは、僕としてもとても嬉しく思った。ちょっと奮発した寿司屋での帰国祝いの後は、中華料理やで飲茶を突きながら、その後はカラオケで昔のように暴れ回ってあそんだ。たのしく、めでたい一日であった。