4月11日 日曜日 小樽にて
妻はあばらが折れたので、この日のスノボは断念とした。「私は見てるから、あなただけ滑ってきていいとよ(えせ博多弁)」と健気な妻であったが、こちらとしてもあばらが折れた妻をおいてスノボを楽しめるほど鬼ではない。朝、温泉に浸かってからバスで山を下りた。山を下りると、そこは小樽の町である。小樽と言えば寿司屋通り。さっそく小樽出身の藤井氏に電話をしたら、とある寿司屋に話を通しておいてあげると粋なことを言う。さすが地元出身は違う。僕らは藤井氏指定の寿司屋に行って、僕は寿司を、生魚が得意ではない生意気な妻は、好物の「うにいくら丼」をたらふく平らげた。藤井氏のよしみで、鮭のはらすの握りのサービスと、お会計時に10%オフの特典を受けることができた。外に出て、小樽の町でおもしろいもの探し大会を催す。あばらが折れた妻は、咳やくしゃみはもってのほか、わらったりするとあばら骨にひびく。そんな妻を笑わせてあそぶ。妻は折れたあばらをかばいながら、命を賭けて笑っていた。健気である。 小樽の町は、看板にロシア語が見られたりして、さすが港町の風合いである。飛行機が発達していなかったその昔、貿易の中心は港町にあって、日本の最先端はこういうところにあったのである。横浜も神戸も、福岡でいうと門司も、本来の日本の街とは、風景も人間も建物の形もちがう、どこか遠くの国に近づいたような異国情緒を感じさせる。小樽は特に何があるわけでもなかったが、のんびりとしていていい街だった。なにはともあれ、食い物がうまいというだけで、生活の充実度なんて半分くらいは満たされるのではないのだろうか。有名な小樽運河の周辺やお土産物屋さんに改造された倉庫街を、ちょっと散歩をしたあとに、電車で札幌へ出て、ラーメン横町でみそラーメンを食べて、東京へ戻った。
小樽で最も妻のあばら骨を苦しめた「うんこ長者」なる演劇のポスター。
ポスターの下には「(うんこマークに×がついて「チケット」)あります。2F文学館まで」と書いてある。
妻の笑いと痛みの入り交じった不細工な顔が印象的。