3月7日 日曜日 がんばれ、K選手。


 K選手とは練習試合を含めて何度か対戦したことがある。僕のポジションはレフトで、左利きのK選手のポジションはライトだったので、対戦する時には必ず僕の正面に彼がいた。僕が主将を務めていた高校のバレーボール部は、公立高校としては強い方だったが、特待生を集めた市内の私立高校との差は大きかった。K選手は、そんな市内の私立高校のひとつ下の学年に鳴り物入りで入ってきた選手だ。聞くところによると、一年生にして高校の日本代表候補かなにかに選ばれているとか、中学時代には全国大会で優勝だか準優勝だかをしたとか、そういう話があったと思う。身長は194cmもあり、彼のブロックはまさに壁のようだった。僕はK選手がブロックに飛ぶ時は、彼の指先を狙ってスパイクを打ってワンタッチをとる攻撃でしか勝ち目はなかったし、彼のスパイクをとめようとブロックに飛んでもその上からスパイクを打ち込まれた。少し話がずれるが、K選手がデートをしているのを街で一度だけ見かけたことがある。相手が僕の中学のひとつ後輩の女の子だったのと、K選手のあまりの巨大さ、それと案外おしゃれだった彼の服装。それぞれ印象的でなんだか記憶に残っている。

 その後、T選手は東京の有名大学にバレーボールの特待生として進学して、そのままバレーボール選手として、僕のお得意先である企業に入社したようだった。その会社のバレーボールチームはVリーグを2連覇し、今年もファイナルまで進んだため、僕は応援のため東京体育館を訪れ、そこでK選手と再会したのだった。再会したといっても、僕は客席にいて彼はコートの中にいたのだから、見つけたといった方がよいかもしれない。僕は暗い2階席で、大勢からの声援を受けるトップチームの中にいるK選手をずっと眺めていた。なんだか不思議な感じがした。ファイナルのオープニングセレモニーが終わると、バレーボールの日本一を決める試合は始まったが、K選手はレギュラーではなかった。K選手が途中出場しないかと、期待しながら見ていたのだが、結局K選手に出場の機会はなかった。試合はK選手がいる、僕のお得意先のチームが勝って3連覇を達成した。高校を卒業したばかりの19歳の選手の活躍が目立っていたのが印象に残っている。

 うまく言えないのだけど、僕はK選手がレギュラーとしてコートに立つ姿が見られなかったことがなんだか残念だった。K選手は、僕が毎日必死でバレーボールを練習していた頃に、まったく手の届かない存在だったのに、日本一のチームの一員とはいえ、控えの選手に甘んじているのが、ちょっと寂しかったというんだろうか。しかも、K選手はこのチームに入ってもう4年になるはずだった。僕はK選手と面識なんかないんだけど、同じコートに立ったことがある相手として、彼を応援したかったのだろう。そして、活躍する彼を見て「あいつのスパイクはすごいんですよ」とかとなりの人に言いたかったのだろう。K選手は忘れていた僕の思い出の、とある部分を切り取ったような、そんなようなものだったのだろう。ちょっと残念だったけど、K選手のおかげで、昔の写真が机の奥から出てきたような一日になった。

優勝チームが喜んでいるところ

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