3月6日 土曜日 酒とロックンロール
都市から隔離されたカプセルに閉じ込められているような気がした。何も予定のない土曜日の朝の僕は、1週間の疲れからか思考停止状態にあった。今日は京都に出張の予定が無くなってしまったので何もすることがなくなってしまったのだった。僕はこんなに何もする事がないというのに、そんなこととは関係なく、街はいつものとおり忙しそうに動いていた。夜になれば、少しくらいは静かになるのだけど、朝となると休日と言えども、どこかに遊びに行く人達か仕事に向かう人達で首都高速は渋滞する。その風景を20階のこの部屋から眺めていると、なにか急かされているような気持ちにならなくもない。長いあいだ慣れ親しんだ下町の、静かな休日の昼下がりの風景には、しばらく縁がなさそうだと思った。こんなことを考えるのも、疲れているからかもしれない。休みたい自分の気持ちとつりあわない忙しい風景を見ていたら、なんだか気が狂いそうになってきたので、ロックグラスに氷をたっぷり放り込んで、ウイスキーを注ぐ。まだ午前中だというのに。氷がじわりとウイスキーに馴染みだす。その隙に音楽をジャニス・ジョップリンに変えた。ノラ・ジョーンズをかけて、ゆったりとした週末の始まりを演出しようとしたが、まったくもって僕の肌に合わなかったのだ。ジャニスの歌声とウイスキーは、すぐに僕の体に染み渡り、心は安堵感に満ちあふれた。酒とロックンロールはある種の不安感を掻き消す効力があるのだろう。そうして午前中から飲みはじめたウイスキーは、夕方頃にはからっぽになってしまった。僕はこの日、結局一歩も外に出なかった。部屋には一日中ロックンロールが鳴り響いていた。酒とロックンロールで十分だった。