2月29日 日曜日 今年初のスノボ。滑り初め。
僕がスノーボードをやるというと、古くからの友達は「似合わんね」と言う。ここには「スノーボードげな、ちゃらいやつがやるもんやろうもん」という前提があり、「ひのちゃんは、そげんことすかんめえもん」という前提があるわけです。そう。大嫌いやった。嫌いになった理由、その1。高校の時に修学旅行で来た長野県の蓼科高原で、当時流行りはじめていたスノーボードをやりよった人らが、ちかっぱへたくそで、スキー教室の俺らにとって多大なる迷惑な存在やったこと。その2。大した趣味もないやつが、でかい面して「趣味はスノボです」とか、プロでもないくせに「おれってボーダーだし」とかいうこと。趣味っていうか、みんながやっとうけんそれに乗っとうだけやろ。そーいうの趣味って言わんったいって。あと、ボーダーとか言うなちゃ。スノボで飯食ってからいえちゃ。その3。金がかかりすぎること。ボードで5万以上。ウェアで5万以上。そげん金払ってまで流行りに乗りたいとや、ばか者がくさ。と言った風に、僕はとても新しいものへの警戒心が強く、大した哲学もないくせにスノボを趣味だと言い張る無趣味人間の同じ穴に入らぬよう、万全の注意を払ってトウキョウライフを続けていた。しかし、例にたがわず「あたしの趣味はスノボ」という、当時彼女だった今の婚約者が、僕をゲレンデに連れていくことに成功したのはおととしの年初である。
僕はやりたくもないスノーボードに両足を固定され、雪面を転げ落ち続け、一日かけて満遍なく全身を強打した。未だかつて、あんなに激しくひどい目に合った事はない。それを尻目に、僕の婚約者はすいすいとゲレンデにシュプールを描いていく。言っとくが、僕の運動神経は決して悪くない。自分で言うのもなんだが、むしろ良い方だ。そして、確実に言えるが僕の婚約者は運動神経が悪い。あいつに出来て、俺に出来んはずなか。俺の負けず嫌い精神に火がついた。「1日で抜いていやる」。結果、自称「2日で抜いてやった」。そこで知った快楽は、人の体ひとつで出せる最高速度の体感ってやつである。摩擦係数の低い雪の斜面を、僕らは重力に任せるまま滑り落ちて行く。そのスピード感は機械ナシで人間が出せる最高速度に近いはずだ。「今転んだら死ぬな」という緊張感の中、意識を雪面に集中し、体の然るべきところにしかるべき力を加える。死ねるスピードの中で山の斜面と対決するのである。その自力感が、僕に向いていると思った。それと、休憩時間にゲレンデにある山小屋のテラスで、冷えた生ビールと本格的ソーセージを食べたらそれがものすごくおいしくって、しかも、冬の澄んだ空気がもたらす山の眺めはすばらしくって、自然の中にいる気持ち良さを感じたこと。この2つが、その後僕をゲレンデに行くことに対しての抵抗をなくしたのだった。今年は忙しくて行けなかったけど、今日、ようやくゲレンデに来ることが出来た。GALA湯沢は、新幹線の駅自体がゲレンデというゲレンデのための駅である。より人工的であまり好きじゃない感じだったが、東京から1時間半で来れる便利さだ。あいにくの雨であったが、いろんな趣味が合わない僕と婚約者の、数少ない共通の趣味となったスノーボードを昼まで楽しんだ。今日もスピードとの戦いだった。初すべりの割には良いすべりをした。満足である。今シーズンはもう一回くらい行きたい。そういう風に思うくらいになっているわけである。