2月15日 日曜日 新居。初めての朝。
僕の新しい部屋から見えるもの。東京タワー。富士山。六本木ヒルズ。お台場。フジテレビ。東京湾。東京モノレール。新幹線。ゆりかもめ。京浜東北線。船。ヘリコプター。飛行機。首都高速。運河。レインボーブリッジ。その他諸々。つまり、東京名物やいろいろな乗り物がほとんど全部見える。なんだか、箱庭みたいな景色。特に地方出身者があこがれる2大巨頭。「東京タワー&富士山」。この両方を手のうちにしたのは、まるで飛車角取った気分。とにかくいろんなモノが見えるのだけど、だからといってこのマンションが町のど真ん中にあるのかというと、そんなことは全然なくって、東京の陸地ぎりぎりぎりの、もうすぐ海に落ちちゃうんじゃないかっていうくらいぎりぎりのところにこのマンションは建っている。(住所は港区海岸。海面上昇で一番最初に海に沈みそうな住所だ。)、そのマンションの一番上の階の一番端っこに僕らの部屋はある。そんな風に、東京の端っこにあるもんだから、けっこう東京全体が綺麗に見渡せる。
はじめての朝は一人であった。婚約者は仕事に出ている。鳴り止むことのない、高速道路の車のタイヤがアスファルトをこする走行音は、あいも変わらず「ごーごー」と鳴り続けていた。積み重なるダンボールの山から、昨晩引っ張り出してきたオーディオとソファ以外の荷物は、未だダンボールの山である。僕は「ごーごー」と成り続ける音を掻き消すために、ローリングストーンズのCDをかけた。部屋には「ストリート・ファイティング・マン」が流れはじめて、スピーカーの中では、ミック・ジャガーたちがロックンロールバンドとして出きることのすべてをやっていた。僕は8ビートに合わせて、ダンボール8個分のCDを引っ張り出して部屋に並べた。お昼までは、段ボールからでてきたCDを矢継ぎ早にかけて、部屋の掃除にいそしんだ。前の部屋では、すこし聞き飽きた感のあるアルバムも、新しい部屋で聞くと新鮮だ。環境は感覚までも変える。
夕方にはエアコンを譲ってくれる先輩の家に行くために自由が丘へ行った。その先輩も結婚を控えた引越しの最中で、準備ができたら連絡をくれることになっていた。自由が丘に着いて先輩に電話をしたものの、なかなか準備ができないようだったので、本屋で本を買った後、できるだけ人気のなさそうな喫茶店を選んで中に入って時間をつぶすことにした。喫茶店ではマスターと話があって、随分気に入られてしまった。話の弾んだところで、先輩の電話が入ったので、マスターに「またくるよ」と行って店を出る。マスターは「自由が丘は虚飾の町だ」と言っていた。僕もそう思うので、また来ようと思った。重い重いエアコンを車で運んだ後、午前2時に休日出勤をして、明日の仕事に備えた。昨日の引越しから2日間まるまる動き回って、くたくたの日曜日の夜。家に帰った僕には、部屋の窓から見える素敵な夜景を楽しむ余力は残っていなかった。来週こそ、港区海岸の部屋でのんびりとしたいものだ。