2月8日 日曜日 戸越のラストウィークエンド 日曜日篇


 昨日に引き続き、戸越でやり残したことを追いつづける週末である。身の回りからなくなると思うと、やっておかねばならないことが次々と浮かんできた。昨日はというと、昼は大好きなカレー屋さんで一番高いメニューを注文し、夜はずっと気になっていた、とある店でオムライスを食べた。予想通り、とてもうまかった。今日の昼は、洋食屋ブルドッグの名物、タンシチューを食べた。これも1300円はするシロモノであるが、これで最後である。奮発して注文した。やはり、とてもうまかった。洋食屋というのは、人肌感があって好きである。ヒューマンスケールで人肌感があり、ちょっぴりジャンクであるところが良い。この町でやり残したこと、などと偉そうに言いながら、なんだかんだで食い物関連のことばかりだが、うまいものを出す店と離れるということは、体の一部を失うようで痛い。僕にとってはそれと離れる寂しさであり、店側にとってはお得意さんをひとり失う、単純な痛手でもある。引っ越しを告げると、どの店のマスターも本当に複雑な顔を見せたのが印象的だった。それは、僕がこなくなる寂しさと、客が減る現実的問題とが半々の顔なのである。

 タンシチューを平らげたその後は、不本意ながら休日出社。ほんと、嫌いなんです。休日出社。しょうがないので昨日買った自転車でかっ飛ばしたら、田町の会社にはなんと15分くらいでついてしまった。僕の自転車は、6万円もする、わりとちゃんとした自転車で、本気でこぐと40km/hくらいは軽く出る。下り坂で思いっきりこいだら55 km/hもでてびっくりした。ぶつかればBicycle Suicideだ。来週の引越し先は、交通の便の悪いところにあるので、先を見越してちゃんとした自転車を買ったのだった。その自転車の性能は思いのほか良く、田町の会社から表参道までもこれまた15分で、表参道から戸越までも15分ほどでついてしまう。これは驚きであった。もっと早く自転車を買っていれば、僕の世界はもっと広がっていたかもしれない。でもとにかく気に入った。これから、僕のすばらしき自転車ライフがはじまりそうである。

 そうして、戸越に戻った僕は、戸越でやり残した最後の夢。「蕎麦屋で酒を呑む」の実行にかかった。いきつけの蕎麦屋をつくって、そこでうまい酒を、ちょっと気の利いたつまみで呑んで、それで最後にそばでしめて、お愛想!などというのに憧れを抱きつづけて早4年。結局、実現できずにこの地を去ることになった。蕎麦屋で酒を呑むのが大人だと、かの村上春樹氏も言っていたはずである。せめて一度だけでもと、僕は以前より目をつけていた、町の蕎麦屋に自転車を乗りつけて、のれんをくぐった。中では数人の客が、それぞれしみったれた顔でしみったれた酒を飲んでいた。みんな一人客だった。店内にはサッカー中継の音だけが響き渡り、それぞれがなにをしゃべるわけでもなく、モニターを眺めながら寂しそうな顔で酒を呑んでいた。僕もその中の一人になり、日本酒を注文した。ここはビールではなく日本酒のような気がしたのだ。

 酒は安物だったが、カレイの煮付けやつくねなど、つまみはなかなかうまかった。蕎麦屋で酒を呑むのは、僕のイメージより、ずっと泥臭かったがこれが現実かもしれない。これが蕎麦屋で酒を呑むということなのだと自分に言い聞かせ、スタイル優先の今夜の晩酌を楽しむ。寿司屋だと、大将と話もできるが、そば屋だとそんなこともできず、なんだか間がもたなくなってきた僕は、しめのざるそばを注文して、お勘定をすませた。今日の、この経験からだけでは「蕎麦屋で酒を呑む」ことを語れそうにないので、もう何軒かで試した後で、気が向いたらお話しようと思います。またひとつ大人に近づいた、戸越最後の日曜日の夜であった。

新車。アメリカのシラス社製。速いよ〜。

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