2月1日 日曜日 箱根の山は天下の険


 遠方から旅行にきた際、そもそもの目的の場所からもう一足伸ばすと、さらにいい旅行になったりする。僕は以前、関西に出張で行った際に、兵庫の城崎温泉まで足を伸ばしたことがある。城崎とは志賀直哉の「城崎にて」の城崎である。兵庫県の北にある。関西地方の人々にとっては、有馬温泉などと並んで温泉地としてメジャーかもしれないけれど、京都や大阪からさらに一時間半ほどかかるところということもあり、東京や福岡に住んでいたら、まず行かない場所だ。しかし大阪や京都に来たことで満足してしてしまわず、ちょいと足を伸ばせば、もうひとつの旅が始まる。城崎への旅はとても楽しいものだったし、なかなかいけないところに行けたお得感のある旅であった。そんなわけで、東京経験のない両親の上京も三日目となった今日は、ひとつ足を伸ばして、箱根へ連れて行くことにした。

 箱根は有名だ。温泉好きの日本人があこがれる箱根温泉郷。その知名度は「箱根の山は天下の険」の歌や「箱根駅伝」で全国区であり、また温泉地としての実力はいうまでもない。しかしながら僕も何度かは訪れた箱根は、あまり良い印象ではない。その第一の原因は交通渋滞。休日の箱根の渋滞は絶望的なまでに長く果てしない。箱根駅伝の5区の選手が走る区間が、丸ごと渋滞になっていると考えてくれればいい。まずは、その渋滞に苦しんだ苦い思い出。次に、日帰り客に冷たいところ。温泉王国九州では、どんな温泉地に行っても日帰り温泉だけで結構楽しめるようになっているのだけど、ここ箱根はそういうつくりにはなっていない。どちらかというと、東京に住んでいるお金持ちが余暇を利用して、由緒正しき高級温泉旅館で一泊して帰るといった感じである。温泉は有るけれども、1泊2日に盛り込まれた「もてなし」を楽しむところなのではないだろうか。そんなイメージが僕の中にはある。

 レンタカーを借りて、車で行くことも考えたけれども、今日の夕方に飛行機で福岡に帰る両親が渋滞に巻き込まれたら目も当てられないので、電車で行くことにした。まず、これが正解であった。箱根の山には登山鉄道というのがあって、この車両が昔ながらの佇まいを持ち、とてもいい感じなのである。歴史ある温泉郷にふさわしい、歴史ある交通手段でのんびりと「天下の険」を登って行く。僕らは「宮ノ下」という、箱根の中心地のひとつである駅で降りて、散歩をしたり温泉に入ったり、有名な老舗ホテルの喫茶店でコーヒーを飲んだりした。箱根を抜ける国道一号線は、相変わらずの渋滞だった。車でこない箱根もはじめてだったのだけど、これも良かった。そもそも箱根とはこじんまりとしたスケール感をもつ、山の上の温泉郷であり、車でぶいーんと通過するのでは、そのいい感じのスケール感を感じられないうえ、渋滞にまで巻き込まれて外の風景さえ楽しめなくなってしまう。こうやって、電車でやってきて散歩して、温泉に浸かって、気の利いた料理屋で飯を食う。良く見ると、安く泊まれそうな民宿もたくさんあった。車だと、こういうスケールのものを見落としがちだけど、今回は違った。町の写真やさんにはジョンレノンが箱根に来た時の写真が飾ってあったり、ホテル直営のパン屋さんにおいしいパンが売っていたり、いままで見えなかった箱根の良いところをたくさん見ることができた。父母も満足したようだった。箱根から品川に戻って、それから羽田空港まで両親を送った日曜日の夜。両親がやってきた金曜日から3日間、良く動いたが、福岡からお客さんがくると、東京に住んでいてもあまり足を運ばないところへ出かけたりするので、それはまた楽しいのである。

箱根登山電車と父母の記念撮影。箱根湯本駅にて。

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