1月18日 日曜日 アルピニスト野口健


 結婚の挨拶に来た彼女の実家で飲み過ぎて酒に酔いつぶれ、目が覚めた朝。しんとしたリビングのカーテンを開けると、外はうっすらと雪が積もっていた。勧められてもいないのに、酒を飲み過ぎる癖は治りそうにないなと思いながら、ぼーっと雪景色を眺めていたら、彼女のお母さんが起きてきてコーヒーをいれてくれた。今日は、早めに街に出て結婚式場を探す予定だ。9時頃にはお母さんに、もてなしと宿泊のお礼を言って、彼女と一緒に家を出た。中央線で新宿に出て、とある有名ホテルを見に行ったら、そこは随分と立派で、もともと結婚資金など貯めていない我々には、見るからに無理そうな佇まいであった。あきらめモードに入った僕達は、地上50階くらいにあるカフェでお茶をしようとしたら、コーヒーが1500円もした。やっぱり、ここで式を挙げるのは無理そうだ。僕は1000円のハイネケンを飲みながらそう思った。

 その後、銀座へ出てアルピニスト野口健の講演会を聞いた。彼はもともと、史上最年少で七大陸最高峰登頂を成し遂げたことで知られる登山家であるが、現在はそのネームバリューも活かしながら、環境保護活動などにいそしんでいる。彼を初めて見たのは、一年とちょっと前に見た「おしゃれ関係」という番組に出演している時だった。彼はとにかく良く喋る。よく喋ることでは右に出るもののいない古館伊知郎を前に、負けじと喋り倒していた。その喋りの中で強く印象に残るのは、エベレストに登頂した時に見た光景の話である。頂上付近は登山家たちが捨てて行ったゴミ(しかも日本隊のものが多い)で溢れ帰り、登頂に失敗した人の死体が凍り付いたままゴロゴロところがっていて唖然としたという話だ。登頂をしたものの、エベレストを制したなんてとても言えない、と彼は思った。天候に恵まれた。ただそれだけだと彼は思ったのだそうだ。それと同時に、そんな頂上付近の惨状を知っているのに何も言わない、何もしない人々への怒りを抱いた。その後、彼はタブーであったそのエベレストの惨状を喋りまくり、登頂するためではなく、エベレストを奇麗にするために清掃登山という活動を開始する。日本隊のゴミが多くて恥ずかしい思いをしたのも大きな動機だったそうだ。これを皮切りに、誰も手を付けることのできない、しかし本当は誰かがやらなくてはいけないことを彼はやり続けている。ここでは詳しく書かないけれど、それは前例のないことをやれない国や役所を動かしたり、利権がからむ人々を敵に回したりと、大変な活動だと思う。そして、彼のすごいところは、それを一般人に分りやすく、しかも面白く伝える能力があることである。彼の講演を聴くのは2度目であったが、自分も何かをしなければと改めて強く感じた。アルピニスト野口健。違いの分かる男へ思いを馳せながら、僕も結婚することだし、人生ちゃんと考えないとなぁと思って湯船に浸かった。日曜日の夜。ちなみに野口健はコーヒーが飲めないらしい。ダバダーは嘘だったのだ。

コーヒーが高いホテルの高いところからみた風景。

土曜日へBack! / Diary Topへ戻る

Home