12月14日 日曜日 髪を切るのに失敗しないために。
髪を切るのに失敗するとつらい。なにせ、金を払った挙句にカッコ悪くなってしまうんだから無理もない。そして、それは往々にして良く起こる。特に僕はかなり強いクセっ毛の持ち主だ。世にいう「天然パーマ」である。髪を伸ばすと天然でアフロヘアに出来るほどだ。七三に分けてスーツを着ていると、よく「ベートーベン」といわれる。光栄ではあるが、僕のイメージどおりではない。僕のイメージは松田優作やボブディランなのに。そんなクセっ毛のせいで、美容師が失敗する確率は余計に高い。カットに失敗した僕のクセっ毛は恐ろしく扱いにくく、伸びて馴染むまでの数週間といったら、その名の通りクセモノになってしまう。どうにか、そんな状況に陥らないように細かく注文をつけるようにしたが、それはむしろ逆効果の場合が多かった。同じ言葉でも、それから連想されるイメージというのは違うのである。僕の中のイメージは僕の言葉となり、それを聞いた美容師は自分なりに解釈した別のものを作り始めるなんてことはざらである。例えば「ジョンレノンみたいにしてください」と、ミディアムのウェーブヘアのつもりで注文したらマッシュルームカットにされたみたいなもんである(あくまで例えばである)。どちらにせよ、一番の問題は僕の髪の、クセの強さである。天然パーマといえば、直毛人はうらやましがるが、これはもう大変な闘いを強いられるのを彼らは知らないのだ。直毛人が、イメージどおりにかけたパーマのように、素敵なウェーブなんて描かないのである。そんな本当に厄介な僕のテンパを自在に操る美容師がいる。
生まれて24年間、思いどおりに切ってくれた美容師なんて一人もいなかった。もはやあきらめ気味であったところに、知人の女の子に紹介されて、足を運んだ美容院にその人はいた。その人のすごいところは、こちらのイメージを汲み取る能力が高いうえに、自分がどう切りたいかの具体的なイメージを持ち、それを客の要望と摺り合わせたのちに、最適なかたちで実現する技を持ち合わせていることである。切る前に軽く会話をした後は、カットに関しての質問を客に全くしない。最初のスタート時に、彼の向かう道は決定されているのである。自信のない美容師は、切っている途中で「もみあげはどうしますか」とか「前髪はどうしますか」とかいちいち聞いてくる。失敗した時に「でもお客さんが言った通りに切りましたから」と言えるからである。リスクヘッジってやつ。しかしながら、客がシロウト考えやイメージで注文をつけた通りに切っても、全体的にはうまくまとまらないことが多いのではないか。僕もそうして何度も自爆した記憶がある。ここはやはり、切り手が責任を持って全体のバランスをプロデュースすべきである。それが出来てこそ、一流なのではないか。僕の担当の石塚さんはそれが出来る人であり、実際に僕が仕上げに不満を持つことはあまりない。僕のたいそうなクセッ毛を、これほどまでに操る人は初めてであるとともに、プロ意識の高さに惚れているのである。どんな業種であろうと、プロの技は見ていて勉強になる。
それで、髪を切ったあとは、大学の同級生である山下氏と地元で待ち合わせして、寿司屋でこじんまりと忘年会をした。寿司屋を出て、僕の部屋に行ってさらに飲む。忙しかった2003年ももうすぐ終わりである。昔からの友達と酒を飲んでいたら、リラックスしすぎたせいか飲み過ぎて、部屋の中だというのに大声で歌ったりしていたような気がする。そいで、山下氏が帰った後の記憶が全くない。それもまた一興。記憶がまた消えた。日曜日の夜。