12月12日 土曜日 500円で充分楽しめるじゃないか。


 めずらしく昼まで寝た土曜日の朝は、まぶしいくらいの快晴。ポストに入っていた「来場者全員に観葉樹をプレゼント」のDMの文字につられて、BMWのディーラーに行ってみた。車を買う予定など全くないけれど、せっかくなのでZ4という最新スポーツカーを3年ローンで買うと、毎月いくらになるかを計算してもらった。BMWのエンブレムをスーツの襟につけた、ぱっとしない担当者が要領悪く計算を終え、僕なんかには到底払えない金額を見せてくれた。同期入社の友達は、何百万もする車を持っている人も多いのだけど、僕は貯金に対する努力が足りないので、残念ながらBMWは買えないことがわかった。それは置いておいたとしても、そもそも駐車場で四万円も払うのが馬鹿らしいんだよね。駐車場代だけで車がもう一台かえるっつーの。高いよ、東京の駐車場は。計算を終え、買うつもりもないくせにがっかりした僕はディーラーを出る。目当ての観葉樹は、DMをもっていくのを忘れたからかもらえなかった。そのくらいくれれば良いのに、まったく気が利かない担当者だった。どうせ車もろくに売れやしないのだろう。そんな悪態をつきながらそのまま国道一号線を南に向かって散歩をする。最近、自分の性格が悪くなったような気がする。なんだか意地悪になってきた。もたもたしている人とか、要領が悪い人を見るといらいらする時がある。心に余裕がなくなっているのだろうか。我に返ろうと思い、博多ラーメン屋に入ってとんこつラーメンを食べた。地元のエッセンスの注入である。これで、すこし昔の自分に戻れただろうか。

 歩きつづけると隣町の商店街の入り口に、携帯電話屋さんがあって、昨日発売されたばかりのソニーの新製品が置いてあった。カメラ付きの薄いやつで色はオレンジだ。メカとしてかなり美しい。僕はその電話にひとめぼれをして、すぐに購入。車は買えないが、携帯電話くらいならどうにかなる。予定外にお役ご免となってしまった、さっきまで現役だった僕の電話を、機種交換のため預けると、一緒に散歩していた松本さんと喫茶店に入った。彼女がいなくなってからは、隣町の商店街をただぶらぶらした。新しい電話は18時の受け取りとなっていて、それまで時間をつぶさなくてはいけなかったのだ。商店街のぶらぶらは楽しいけれど、あんまりぶらぶらしてもしょうがないので、古本屋に入って本を買って、喫茶店でそれを読んで時間を潰した。本はポール・オースターの「幽霊たち」にした。ある人から依頼を受け、何もしない男を見張る話だ。この人の小説はいつも何もしない人が出てくる。でも何もしていない人は、本当に何もしていないわけではない。物語は何もしていない人の内省的な活動を軸に進んでいく。そんな話をいい感じの喫茶店でのんびりと読んでいる。幸せな時間である。ここ、中延の町には、そういうことをするのに向いている良い感じの喫茶店がたくさんある。何も用事のない日に、古本屋で買った200円の古本を読んで、良い感じの喫茶店で珈琲を一杯だけ飲む。ちょっと照明が暗めで、客は多すぎもなく少なすぎもなく、ただ店の中に珈琲の良いにおいと、ゆったりしたジャズが流れているようなところがいい。かかるお金は500円くらいなものだ。十分に楽しくて、コストパフォーマンスがいい。500万円もだしてBMWのオープンカーで海岸へドライブもよかろうが、楽しみの差が10000倍違うかというと、きっとそうでもないよね。まあ、金があれば良いのだけどね。僕は今日、かっこいい携帯電話を買ったので、それで十分満足である。

いい感じの喫茶店ってこんな感じなわけ。

日曜日へgo! / Diary Topへ戻る

Home