11月30日 日曜日 ディズニーランドの魔力。
僕はディズニーランドとか、できたら行きたくないなとか思っちゃうタイプ。実際に行ったこともない。いい大人が、ぬいぐるみのネズミに会って大喜びしているなんて、信じがたくないですか。あれ、全部作りもんですよ。子供が喜ぶのはよく分かる。俺だって幼き頃は、遊園地にやってきたゴレンジャーに大興奮したような記憶もある。しかし、いい大人が作り物の世界で幸せになった気でいるなんて、おかしくないか。百歩譲って、ディズニーランドを楽しむことを認めたとしても、ミッキーの耳型ヘアバンドをつけたまま、舞浜駅(ディズニーランドがある駅)からJR京葉線に乗り込んでくる30代女性は、もはや正気の沙汰ではない。「私は今、我を失っています」といいながら歩いているに等しい。ディズニーランドで脳みそを破壊されてしまったのである。まったくあきれるばかりだ。そんなバカを放出しながらも、ディズニーランドは20年も市民を魅了し続けている。これは何かあるに違いない。偵察に行かねばなるまい。そんな気になっている時に松本氏がディズニーランドに行きたいというので、ちょっくら行ってくることにしました。 結局のところ、ディズニーランドは結構楽しかった。ディズニーランドというひとつの国の世界観の実現はほぼ完璧で、単なる子供だましのレベルを超えている。従業員は「キャスト」と呼ばれ、ディズニーランドという世界の出演者ということになっている。彼ら、彼女らが客の夢を壊すことはまずない。ミッキーやミニー、ドナルドのように、純粋無垢に僕らを最高のもてなしで迎え入れてくれる。そのサービスレベルはおそらく日本トップクラス。ディズニーランドを出た後に、あらゆる店の接客が悪く見えてしまう「ディズニーランド・シンドローム」はあまりにも有名だ。最初は冷静な目で見ていた僕も、だんだん脳が犯されてきて「ミッキーに会いたい」と思いはじめる。プーさんと一緒にはちみつを探しにいく「ハニー・ハント」というパビリオンに行ったのだが、そこを出たところにあるプーさんショップでは、危うく、肉球を押すと踊り出す「クリスマス限定・踊るプーさん人形」を買ってしまうところだった。その頃の僕は、頭にミッキーの耳をつけて歩いている30代カップルを、少しだけ許せるようになっていたのである。
僕はこの日にディズニーランドをうろついている間に、とあるレコードのことを思い出した。クリスマス会をする時にかける「諸人こぞりて」や「ジングルベル」が入ったレコード。僕は、クリスマスの頃になると、おばあちゃんの家にあったそのレコードをかける。ひとりでそれを聴く。何か楽しいことが始まる予感がするレコードだった。やがて、サンタクロースも信じなくなり、クリスマスという日本人には本来関係ないイベントに踊らされる人々を冷静に見つめるようになった僕は、そのレコードも聴かなくなった。クリスマスも楽しみではなくなってしまった。僕がディズニーランドのような世界を信じなくなったのはこの頃からのはずである。しかし、今日、僕は思った。素直に騙されようと。ミッキーは僕を楽しませようとしているのだ。だったら、素直に楽しもうと思った。ディズニーランドを去る僕の頭上には、ミッキーの耳型ヘアバンドがあったとかなかったとか。そんな、日曜日の夜であった。