11月29日 土曜日 ウイスキーという飲み物について。
ぼくはウイスキーが好きだ。もともと好きだったわけではない。2年前、仕事でウイスキーの広告を担当することになった際に、それについて勉強したのがきっかけだった。ウイスキーという酒は、勉強すれば勉強するほど奥が深く、またその由縁を知れば知るほど旨くなる。僕は特に酒好きだから、なおのことであった。ウイスキーのことを勉強して、なんて、なんだか肩肘張ってて嫌な感じだけど、ワインのいやらしさに比べれば、ずっと男前である。もし、あなたが酒好きならば、いろんな味のウイスキーを飲んでほしい。その魔力を持ってして、必ずウイスキー好きにさせる自身が僕にはある。それほど、ウイスキーはいい酒なのだ。ウイスキーは、フルーツやナッツや煙や潮の味がするのだ。 ウイスキーが僕にとっていい酒であるというのは味もさることながら、なによりも僕が好きなカルチャーとの相性がいいところに、その理由があると思う。ロック、ジャズ、ブルース、小説、夜、恋。どれにウイスキーをあわせても、それの味は引き立つ。そこに煙草が加わるとさらに良いのだけど、それは思い立って一年くらい前にやめてしまった。ともあれ、会社から家に戻って、とっておきのウイスキーグラス(これは実はこだわりたい)に、ロックアイスを入れて、スコッチを飲む。飲み方は基本、ロックで。好きな音楽をかけて、好きな小説をぱらぱらとめくりながら、きついウイスキーで1日の疲れを麻痺させるのだ。照明は暗めで。ここでは、焼酎でもなく、日本酒でもない。ビールも惜しいけどやっぱりウイスキーだ。間違いない。確信を持っておすすめする。
今日は、そんなウイスキーを作っているブレンダーという職業の人と話す機会があった。ブレンダーとは、熟成をした樽ごとにそれぞれの個性を持つウイスキーをブレンドして、売り物としてのウイスキーの味を作り上げる、いわばウイスキーの調合師である。そう、ウイスキーは樽からそのまま瓶詰めされて僕らの手もとに届いているわけではないのだ。そういうウイスキーもあるけれど、それは「シングルカスク」と呼ばれる、非常にニッチでマニアックなウイスキーだ。通常は何十種類の原酒をブレンドして、一つの味を作り上げている。それは角瓶であったり、ダルマであったりするわけで、それぞれが、どの瓶で飲んでも同じ味になっているのはブレンダーさんの存在あってのものである。
新製品を開発する際は、その味設計でもブレンダさん同士で大論争になることもあるのだそうだ。僕らではよく分からないレベルの、味覚攻防戦が繰り広げられているのであろうか。明確には言語化できない世界で、自分の考えている方向の方が正しいとか、会議で通すのはきっと至難の技であろう。でも、そんな話をちょっぴり垣間みた(きいた)だけだけど、なんだかかっこいいと思いませんか。普通の人では分からないであろう微差が明確に嗅ぎ分けられる人たちが繰り広げる攻防戦。一見(一臭)分からないようで、そういうのって実際に製品化された時に、売れる、売れないに影響を与えると思うんだよね。全てはディテールに宿るのである。時にそんな思想を信じたくもあり、それがかっこ良く見える瞬間がある。ま、とにかく、僕はウイスキーが好きなので、そんなブレンダーさんと話すことも、またウイスキーをどんどん旨くしてゆくわけである。ウイスキーは美味い。死ぬまできっと僕の友達だ。