10月19日 日曜日 長野県雨飾山 ジジババの洪水


 酔っ払ったまま登山口へ向かう。ああ、これはいくらなんでも失敗だった。今から2000メートル級の山に初挑戦するというのに、前の晩に例のごとく酒をのみ過ぎて、僕は激しい二日酔いだった。というより、まだ酔っ払っていたというほうが近い。おまけに宿の人が登山口まで車で送ってくれたのはいいけれど、運転が荒く、そのせいで重ねて車酔いのダブルパンチ。駐車場につくなり、激しい嘔吐を繰り返し、最悪のコンディションで山に入った。僕の登山人生第一歩だというのに。天気はすこぶる良く、紅葉も最高潮。悪いのは僕の体調だけ。しかも「最悪」。5段階評価の1だ。

 長野県と新潟県の県境にそびえる雨飾山は、日本百名山に名を連ねていながら、わりとマイナーで、登山愛好家のなかで知る人ぞ知るという穴場なのだとのこと。しかしながら、人の多いこと多いこと。40代を皮切りに、50代、60代、下手をすれば70代にもなろうかというジジババがこぞって体力自慢をするかのように山に殺到していた。しかも、ジジババが大好きな紅葉シーズン。奇麗な紅葉に大喜びしながら、ジジババは頂上を目指してゾンビのように連なって歩いていた。街で見ないと思ったら、ジジババはこんなところにたくさん来ていらっしゃったということか。よく、山手線でストックなんか抱えて、ネルシャツみたいのを着て、チノパンみたいのに登山靴を履いて、登山丸出しスタイルで立っているジジババがいて、どこに行っているのだろうと思っていたら、こんなところにたくさんいらっしゃった。僕のなかの謎がひとつ解けて、僕らはジジババの仲間となり、頂上を目指す。吐きそうになりながら。

 実際、かなりきつかった。二日酔いのせいというのが8割以上だけど、そうでなくてもそんなにらくちんではない。だというのに、ジジババといったら僕達とたいして変わりないペースで登ってゆく。ムキになってジジババを追い抜いてみるけど、ちょっと休憩している隙に、再度抜かれてしまう。むむむ、侮れないね、ジジババどもよ。中腹の沢に出て、冷たい川の水で顔を洗った頃には、ようやく酔いも醒め体の調子は元通りになって来ていた。結局のところ3時間半くらいかけて1965mだっけ?頂上にたどり着いた。頂上では、登山マニアたちが得意げに様々なツールを取り出して、頂上ライフを楽しんでいた。なかでもガスバーナーを取り出して湯を沸かし、まるちゃんのワンタンめんを作りはじめた登山マニアは、コンビニおにぎりを握りしめている僕らには眩しすぎた。僕らは、次の登山までに、あのマニアが持っているガスバーナー(coleman製)を必ずや入手することを頂上で固く誓った。

 そこから2時間半ほどで下山して、ふもとの小谷温泉で汗を流す。この山が人気があるのは、ふもとに温泉があるからというのも一つあるだろう。登山で随分と痛めつけた体を温泉にひたすと、もうそこは天国なのです。月並みなのだけど、疲れた筋肉がほぐされて、周りの自然は気持ち良くって、ああ、がんばってよかったなぁ、って思うわけです。この温泉は町営の温泉でなんと入浴無料。ただ。ただです。管理費がかかるので気持ちだけでもお金を入れていってください、と書いてある箱が置いてあったけど、あいにく小銭がなかったので見なかったことにした。そうそう、この露天風呂には「都わすれの湯」という名前がついていた。随分と都会から来る人を意識した、あざといネーミングですね。うっかり、まんまと都わすれ気分になってしまいました。やっぱり田舎はいいわ。自然がいいわ。って思った。5時頃にはバスに乗って、JR南小谷へ行き、乗り換えの信濃大町ではしつこくそばを食い、松本から乗った特急あずさのなかで熟睡。いや、ほんと充実した週末でした。大満足のなか眠りに落ちる、日曜日の夜。

ジジババ軍団の記念写真風景。頂上シズル満点。昭和の匂い。

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