10月18日 土曜日 山梨県 長野県


 読んでいた本から目を上げると、そこはもう山梨だった。窓の外にはブドウ畑が広がっていて、新宿を出発したときに空を覆っていた雲も、西へ向かうほどに消えていき、ここ山梨の空は真っ青だ。今日は明日の登山に備え、長野県の白馬に向かう途中。旅の友は松本(の)氏。彼とは年初から登山に行く約束をしていたのだけど、いつの間にやら秋も中盤を迎え、このままでは登山シーズンが終わってしまうということで、急遽登山計画を立て、本日実行に至ったのだった。ひとまず、今日は白馬の宿にたどり着くのが目的なので、とりだててやることはない。なので、ウイスキー好きの僕たちは、山梨県小淵沢にあるサントリー白州蒸溜所に寄り道をすることになっていた。新宿を8時ちょうどに出発した「あずさ」(あずさ2号ではなかった)は、10時過ぎに小淵沢に到着した。

 山梨、長野県といえばそばである。東日本のそばはうまい。僕が知っている福岡のそばは、ぶちぶち切れる歯ごたえのないそばなのだけど、こっちのそばは気合が入っている。40代のおやじたちが、こぞって東急ハンズにそばうちセットを買いにいったりする。そばブームなのでそばうち教室はいつも満員御礼だ。そんな素人親父たちでさえ、そばにただならぬ気合を入れているのだから、飲食店のそばといったら、もう気合入りまくりなのである。おやじたちも、もはやそばにはものすごくうるさくなているのだから。そのなかでも、本場信州のそばといったら、けた外れで、大げさでなくどこで食べてもうまいのだ。その辺で蕎麦屋を見つけて入ると、そこには必ずうまいそばが出てくる。そう、だから僕たちは必然的にそばを食べた。宿命的ではなく、必然的に。僕らが行った「翁」という店は、小淵沢駅のレンタカーやさんのとなりにつったっていた、地元のおじさんが教えてくれたみせだけど、ずいぶんと有名店のようで、東京から来たらしきナンバーの高級車が駐車場に並ぶいやらしい店だった。僕らはレンタカーしたやすっちぃ車を店の前の空き地にとめ、そこで高級らしきそばを食べた。うまかった。でも、そばはそばやで。あんまりムキになったらあかんでぇ。

 うまいそばでいい気になった僕ら二人は、サントリー白州蒸留所にのりこむ。一通りの工場見学を済ませると、かるいうんちくを聞かされた後、ウイスキーのみ放題タイムに突入。ここぞとばかりにウイスキーを飲みまくる。「ただじゃぁ、ただよりやすいもんはないんじゃぁ。」順調に酔っ払い、飲酒運転でレンタカーを運転して小淵沢の駅に戻った。レンタカーを返却し、駅でそばを再度食べる。何はともあれ、そばである。そういうこと。そばを食い終わると、1時間に1本の電車が来たので、それに乗り込み松本へ向かった。「まつもとー、まつもとー、まつもとー。まつもとです。」間抜けな場内アナウンスが僕らを迎える松本駅。長野の松本駅に行く人はぜひ到着時に場内アナウンスに耳を傾けてください。かろやかな場内アナウンス「まつもとー、まつもとー、まつもとー。まつもとです。」が迎え入れてくれます。そこから大糸線というローカル線に乗り込み、JR東日本の果ての駅「南小谷」へ到着。

 松本氏が予約した「かんてら」というロッジは、今回の標的である雨飾山のふもとの宿が予約できなかったせいで、ちょっと遠い白馬に当てずっぽうに予約したロッジだった。しかしながら、この宿はとってもいいところで、内装や建物もひとこだわりがあり、入った瞬間に「ここはよいぞ。」と感じさせてくれるつくりだった。よくよく聴いてみると、オーナー夫妻は東京の美大出身だという。なるほど、いろんなものが、サラリーマンあがりの無センス夫妻が経営するペンションと一線を画している。むかし、栃木かどっかでとまったペンションは、マイクロバスに白雪姫と七人の小人の絵が書いてあり、建物も七人の小人風だった。ロマンチストにもほどがある。でも、まあ、ペンション好きなんだけどね、僕。

 結局のところ、このペンション、料理もおそろしくうまく、危うく明日の登山を中止にしそうになるくらい心地よい時間を過ごすことが出来た。あまりに心地よいので、今日白州蒸溜所で買って来た、蒸溜所限定ウイスキーをしこたま飲み過ぎ、いつもの土曜日と同じように泥酔の末、記憶を喪失する。今日のところは気持ちいい時間と、山梨長野の大自然が僕の心を解放してくれたからだと言うことにしたい。ビバ長野。長野県に悪い人はいない。これ、僕の持論。長野県はいいところです。

旅の友、松本氏。そばを食う。いや、もう、ほんと、うまいんだってば。とにかくそばなんだってば。

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