10月11日 土曜日 あの頃の僕より今の方がずっと若いさ
昼は野球の試合だった。会社の人たちで作っているチーム。僕が入団した頃は、打てば三振、守ればエラーのひどいレベルだったこのチームも、3年たって随分強くなった。今日も大差で相手に圧勝。転勤で大阪に行ってしまう先輩の引退試合となるこの日を飾ることができた。一人、人がいなくなってもチームは存続して行くけど、主力を担っていた人が去ると、何だか一つの時代が終わったような気がする。そうやって、時はどんどん流れて、人はどんどんと僕の目の前を通り過ぎて行くんだなぁ。
夜の僕は日比谷野外音楽堂で目に涙を溜めていた。元真心ブラザーズのYO-KINGこと倉持陽一のライブに来ているのであった。YO-KINGの新譜はシンプルなロックアルバムだったけれど、正直あまり聴き込んでいない。このライブのために、改めて聴いてみたのだけど、やはりあまり好きではなかった。真心ブラザーズが大好きだった僕は、ソロのYO-KINGのアルバムに少し失望を覚えながら、そうはいいつつ彼のライブには淡い期待を抱いて日比谷に来ていたのだった。彼のライブには力がある。あるはずだ。ここ日比谷野外音楽堂ってとこは、本当に気持ちいいところで、例えライブがイマイチだったとしても、この大都会の真ん中にある、空洞のような夜空の下で大音量のロックンロールが聴けることだけで僕は充分な気もしていたのだった。
彼のすごいところは、歌詞の鋭さと熱さ、ストレートさ。それをあっけらかんと歌い、暑苦しくさせない不思議な歌声にある。この日のライブは結局のところ、予想通りだけどかなり良かった。彼はソロになってからの歌にこだわらず、真心ブラザーズ時代の歌もたくさん歌った。とある曲で、不覚にも涙がでた。たまにそういうことがあるのだけど、歌を聴いて涙が出てくるっていうのはどういうことだろう。ちょっと考えてみたのだけど、つまるところ昔聴いたその歌たちは、僕に昔を思い出させているのだった。帰ってこない時間、二度と会えない人、未熟だった自分。この曲を初めて聞いた頃の時代、それが急に頭にフラッシュバックしてきた。ノーガードであごにフックを入れられて一発でダウンだ。YO-KINGは【ああ、あの頃の僕より、今のほうがずっと若いさ】と歌った。そうだ、あの頃の僕より、今のほうがずっと若いさ。
My Back Pages
白か黒しかこの世にはないと思っていたよ
誰よりも早くいい席で いい景色がみたかったんだ
僕を好きだと言ってくれた 女たちもどこかへ消えた
ああ あのころの僕より今の方がずっと若いさ
自尊心のため無駄な議論を繰り返してきたよ
英雄気取りで多数派の弱さを肯定もしてきたし
僕を素晴らしいと言ってくれた 男たちも次の獲物へ飛びついた
ああ あのころの僕より今の方がずっと若いさ
穴の開いた財布が僕に金をくれ 金をくれと言う
青空が僕に無理やり のんきさを要求する
僕を怖いと言ってくれた 友人もはるか想い出の中
あのころの僕より今の方がずっと若いさ
あのころの僕より今の方がずっと若いさ
Bob Dylanの「My Back Pages」のコピー「マイ・バック・ページ(真心ブラザーズ)」の【ああ、あの頃の僕より、今のほうがずっと若いさ】というこのフレーズ。直訳するとこういう風にはならないのだけど、それをこう訳したのは名訳。このサビ以外の歌詞も、原詩とは随分違うけど、結局のところそれもすごく良い。時代はどんどん巡り、人はどんどん通り過ぎるけど、音楽は僕らを瞬時にその時代へ連れ戻すんだなぁ。