9月6日  土曜日 沖縄本島、印象悪し。


 沖縄本島の最初の印象はあまり良くない。石垣島から移動した木曜日は、次の日にケラマ諸島へ移動するつもりだったので、港の近くのゲストハウスを予約しておいた。朝早いので、移動が楽なほうが良かろうと考えたからだった。このゲストハウスは、元々沖縄アクターズスクールがあったところらしく、それがウリになっていたりもする(ちなみに僕はアクターズスクールのファンでも何でもない)。ゲストハウスの中にはレッスン場の内装がそのまま残っていたりする。ガイドブックへの広告掲載も盛んで、それを見る限りでは、それほど悪いゲストハウスではなさそうだった。ロビーに大勢の若い男女が集い、初対面の人たちともすぐに仲良くなれると、そういう風な広告だ。僕も世界のいろんな国でドミトリーに泊まってきたこともあり、そういう感覚はわかるつもりである。そんな感じかなと思い宿に到着した。

 しかし、たどり着いてみると、そこにはもう午後3時にもなるのに、なにをするでもなくだらだらしている二十歳前後の若者たちがゴロゴロと。真っ昼間からソファーでぐっすり寝ている若い女の子達。視界に入るだけでも5名はいた。昼寝と言う感じではない。もっと不健康な睡眠だ。男も覇気のない顔で、カードゲームに興じていた。決まって茶髪で無精ひげが生えている。こんなところまで来て、この人たちはいったいなにをやっているんだろう。六本木や渋谷で夜遊びをしているような子達をそのままここへ持ってきた。そんな感じだ。神奈川の田舎ヤンキーが「じゃ、おれたち、沖縄行くべさ!」「おう!いくべ!いくべ!」と言って来たような感じだ。日常で送っている、だらしない生活の舞台を、沖縄と言うわかりやすい南国に移しただけである。チェックインするや否や広がったこの光景に「しまった」という思いでいっぱいになる。旅行に対する意識が違いすぎる。そもそも、ここは素泊まり1500円という格安のゲストハウスだから、無理もなかったかもしれない。どうせ夜寝るだけだと思っていたのだけど、やはりこういうのは実際に見てから決めたいものだ。壁に張ってある張り紙には、へたくそな字で「幹部候補生募集!」と書いてあり、その能天気さが僕の不快感を逆なでした。幸い、次の日に渡ろうとおもっていた座間味へのフェリーが、翌日満席だったので、それを理由に、このゲストハウスをキャンセルし、座間味行きの船に逃げ込んだのである。

 といったわけで、座間味から沖縄本島へ戻る時は、やや不安ではあった。やりたいことも特にはない。初めて見た那覇の町は、あまりに都会で、一人旅の僕の気持ちとは、ちょっと乖離がある。都会と一人旅というのは、もともとあまり相性が良くないのだ。有名な国際通りは、ただの土産物屋の通りで、まったく品がなかった。あんなところには、出来れば近寄りたくない。こうなったらと思い、僕は本島での宿を恩納村に取った。素泊まりで5000円と予算オーバーではあるけど、那覇のゲストハウスのような醜態はもう見たくない。5000円払えば大丈夫だろう。恩納村は沖縄本島の中部にあり、海岸線近くを走る国道58号線を2時間ほど北上したところにあるリゾート地帯だ。かの万座ビーチも恩納村にある。リゾート地もまた、僕の好みではないが、どうせなら、のんびりとリゾート気分でも味わうかと、すでに割り切った気持ちになっていた。次の日から仕事なのだから、少し気持ちを休めるのも悪くないかと考えたのである。

 僕は泊港(とまりん、というかわいい愛称がついている。)から、空港へ行き、レンタカーを借りることにした。車はワゴンRのぱくりのような、見たことのない三菱製の軽自動車だった。24時間で6000円ほど。そのワゴンRもどきの車で国道58号線を北へ向かう。国道58号線は沖縄の大動脈だが、風景は限りなく退屈だ。東京の環状線。九州の国道3号線のように、延々と全国チェーン店の個性のない風景が続く。沖縄って、こういうところなのか?そんな風景のせいで、太陽が沈む光景にさえあまり注意を払わずに車を走らせつづけた。海は充分に奇麗だったけれど、離島の海を見てしまった後では、本島の海はやや見劣りする。日は沈んで、やがて暗くなった。

 ようやくたどり着いた宿は、ペンション然とした、ペンションだった。ファンシーな内装のログハウスで、宿主はピアノ演奏が好きらしく、ジャズピアノの教則本などが本棚には並んでいた。宿の前には、昔は奇麗であっただろう、50代に見える白髪の女性が出迎えで外で待っていてくれ、静かに部屋に案内してくれた。ペンションの中はあまり人の気配がしなかったが、駐車場の様子を見る限り、結構な宿泊客がいるようだった。夕食時だったけど、ペンションで食事をとっている客は誰もいなかった。ペンションというのは、ある種、料理自慢の場合が多い気がする。脱サラした主人と、その妻が都会での生活に疲れて、自分たちの理想境を作ろうとするのがペンションである。と僕は勝手に思っている。そんな多くはないであろう資本金のなか、立派な部屋というのは資金的に提供するのは難しい。施設にお金はそうそうかけられないはずだ。だからこそ、食事に志向を凝らし、気の効いた素敵な料理を、どこのペンションも出してくるのだ。と、僕は思っている。実際に、ホテルの食事などより、ペンションの食事のほうが僕はずっと好きだ。人肌のぬくもりがあり、もてなしの心を感じる。しかし、その料理が出せないのでは、ペンションのテンションも下がるというものだ。奥さんは、張りのなさそうな声で「今日は皆さん素泊まりなんですよ。」と教えてくれた。僕は部屋に荷物を置いて、車で待ちに出て食事を済ませた。なんだか、何も起こらなかった1日だった。明日は万座ビーチでゆっくりしよう。もう東京という現実はそこまで迫って来ているのだから。明日は僕の夏休みの最終日なのである。

暑いところだからね。水だけじゃ駄目なわけよ。

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