8月16日 土曜日  日の沈む国から


 雨の音で目が覚めた。会社に行く日なら憂鬱になるところだけど、今日は休みの日。嫌な気分にはならない。もともと雨の音で目が覚めるのは嫌いではない。無意識の中に雨の音があって、その音が目覚めに近付くにつれ、すーっと現実世界に現れてくる。その感覚、まさに「目が覚めた」という感じ。川の音、セミの鳴き声、波の音、みんなそう。そういう単調でひっきりなしの音は、きっと眠っている僕たちの耳になりつづけ、それがその音だと知覚された時に、人は目覚めを感じる。今日は雨の音で目が覚めた。土曜日の朝。この大雨は全国的なものらしく、昨日から電車が止まっていたり、どこそこの地盤が緩んで住民が避難したりしている、とニュースで流れていた。東京都内は、そんなに大降りではないけれど、不気味なくらいに淡々と永遠に続くかのように雨は降りつづけていた。僕は雨の音の中、起き上がり英会話と、中国語会話の準備をして、傘をさして外へ出かけた。

 英会話の先生は、Rock好きの黒人で、ビートルズの雑誌記事を題材に授業は行われた。ジョンとポールはどっちが天才かとか、ジョージやリンゴは果してすばらしいミュージシャンなのかとか、そんなことを話した。結局のところ、ビートルズはamazing groupだ、ということで話は落ち着いた。2時間の授業を終えて、外に出ると雨はまだ降り続いていた。中国語の時間まで2時間ほどあったので、銀座で昼飯を食べることにした。シシリーというイタリア料理屋。ここはB級グルメとしては、かなりオススメである。名物は何といってもナポリタンスパゲッティ。いったいどういう風に作ったら、こんなに旨くできるのか教えて欲しいほどのしろもの。ケチャップはたっぷりだけど、ケチャップではないなにか別の旨みが凝縮されている。和風に言えばダシが効いている。大ぶりのエビやマッシュルームもたっぷり入っている。そして特筆なのは、100円UPでできる大盛り。これ、単純に量が倍になる。そんな馬鹿な!という量がやってくる。それを目当てに結構な人がやってくる。女の人は大盛りにして、2人で分け合い、ほかのメニューをまた分け合う。店の人気も結構なもので、休みの日などは、行列さえできていることもあるほどだ。料金は700円ほどと、銀座では相当良心的な価格設定。店の名前はイタリー料理・シシリー。なんで英語読みなのだろう。そして、本場イタリアには「ナポリタン」はないという。このいかがわしさ含めて、Top級のB級(どんなんや)。最高。ピザもラザニアもおいしいので、機会があればどうぞ。食べ終わった後はコーヒーを注文し(コーヒーはおいしくない)、本を読んで時間をつぶした。中国語の時間が近づいてきたので、本をたたみ1000円ほどを支払い、地下の店から階段を上がって外に出た。雨は同じペースで淡々と降りつづけていた。

 中国語が終わっても、まだ雨は止んでいなかった。もう一生降り止むことのないような、そんな空模様。僕は地下鉄に乗って家へ帰る。モロッコの森口氏から小包が届くことになっているのだ。僕が4年前に訪れたモロッコで買ったスリッパ。かなり気に入っていたのだけど、すでにぼろぼろ。青年海外協力隊でモロッコに派遣されている森口氏に、新品を送ってもらうようお願いしていたのだ。小包は夜の7時ごろ届いた。無愛想な白の段ボール箱は、ガムテープで厳重に包装されていた。遠いアフリカからの小包は、その佇まいだけでなかなか感慨深い。小包を開けると、部屋に懐かしい匂いが漂った。僕がモロッコを旅している時に、無理矢理連れて行かれたなめし皮の工場の匂い。お土産物屋の匂い。そんな匂い、忘れていたけれど、そのスリッパ(パブーシュという)から漂う匂いは、4年前の記憶を一気に蘇らせた。2足も入っていた。赤と黄色。これで、またしばらく僕のスリッパライフは充実しそうである。お礼に彼にメールを書いた。好きなものを何でも送ってあげるから、要望を聞かせよ、というもの。彼から何の要望が来るか楽しみである。

モロッコではルンペンとかがこれを履いてたんだよねぇ。

日曜日へGo! / Diary Topへ戻る

Home