布団の中で、寄り添うように、
何かを抱きしめ合うように、手をつないでいた。
それが、セイにも、総司にも、今、必要な事だった。
「結局、アイスホッケーしかやらなかったですね」
「そうですね」
「せっかくのゲーセンデビューだったのに」
セイがくすくす、と弱々しい笑いかたをした。
「…また、連れてってもらいますよ」
総司も少し笑いながら、身じろぎをした。
枕の高さが気に入らなかったらしく、自分の腕を枕にし直して、セイとの顔の距離を縮めた。
風が凪いでいた。
もう、真夜中というべき時間はとうに過ぎていて、月も降りていた。
「少し、寒いですね」
セイがそう言って鼻をすすった。
「じゃあ、こっちへいらっしゃい」
ふせがちだった瞼を上げて、セイは総司を見つめた。
総司は両手を遠慮がちに伸ばすようにして、セイを待っていた。
セイが、そろりと片手を伸ばした。
総司はそれを待たずにセイを抱き込んだ。
すっぽりとその小さな体を包み込んで、総司は、目を瞑った。
二人分の体温は、ゆっくりと上昇した。
二人とも、目を瞑っていた。
「こうして、寝て、夢を見るんです」
セイの声と息が、総司の腕の中でくぐもった。
「その人と、走るんです、いつも」
「走るんですか?」
「走るんです。毎日、毎日、…浜辺で」
セイがもぞりと動くと、総司は少しだけ顎を動かした。
「毎日ですか」
「ふふ、毎日です」
風はもう、止んでいた。
「夢の中で私は、その人の名前を叫んで、その人の顔をはたいて、笑うんです」
月が、落ちる。
「それから、その人の叫び声を聞いて、また、走るんです」
「走るんですか?」
「走るんです、海のそばで」
セイの、それを話す声は、幸せそうだった。
幸せそうで、暖かで、————愛しさに、満ちていた。
「それから、ゆっくり、目を覚ましていって」
総司は、ただ目を閉じていた。
夜風が頬に冷えた。
消えそうな、小さな声がしぼりだされる。
「…目を、開けると、その人の名前と、声と、顔が、全部、真っ白になって」
真っ白に。
セイは口を閉じた。
その閉じきった口をこじ開けるように、総司は、セイを強くくるんだ。
セイは、その強い腕の中で、震える声で吐き出した。
「すっきり、肝心な事全部忘れて、起きるんです」
布団は、暖かかった。
風は、冷たかった。
時間だけが、過ぎた。
セイが、ふ、と笑った。
「こんなんじゃ、いつまでたっても会えませんよね」
総司は、鼻でため息をつきながら、セイの頭を包んだ。
「会えませんねぇ」
その時、セイが破顔した。
「会えませんね」
何かが外れたようにくすくすとおかしそうに笑うセイを、覗き込む。
心配をして覗き込んだのだが、思いのほか、セイは本当に笑っていた。
総司は、そのまま、目を瞑った。
正直、眠かった。
昨夜一睡もしなかった瞼は、自然と闇へと落ちていく。
その闇の中に、屋上で見たあの青空がうつった。
総司の瞼の中の青い空で、鷺が、迂回して、消えていった。
「沖田先生の夢に、出てきてくれたらいいですね」
セイがひょんとそんな事を言った。
「…どうですかねぇ」
鷺が弧を描いた青空が、海に見えた。
苦しかった。
海は、蒼かった。
----続く----
第二章終了です〜。
次はまた海です(笑)
ひさびさに暗いのを書きましたが…
それにしちゃ暗い?!暗いか?!とおびえまくりです(小心)