波の音は、もうしない。
その淋しさと絶望感に、セイは苦しむようにうなって、目を開けた。
セイをくるんでいるのは、枯れ葉ではなく肌触りの良い羽根布団とベッドだった。
無人島ではない。
いつもの夢だ。
セイは、そうして前髪をかきあげた。
頭が痛い。
長い夢を見過ぎるせいか、セイの朝は、いつも時差ぼけのように混乱していた。
いつのまに眠っていたのだろう。
セイは、布団をにぎりしめて、うつぶせていた。
日差しが痛いほど目に染みる。
秋の実りをぶらさげた木々が、ゆるやかに影を伸ばしていた。
重い頭をもたげて、窓のふちに置かれたコップをぼんやりと見つめる。
鈍く光るそれは、昨夜から放っておかれているせいか少し淋しげでもあった。
そうして、総司がどこにもいないことに気付いた。
隣にぬくもりは無く、シーツは冷たかった。
セイはずるりと這い上がるように身を起こすと、もう一度部屋を見回した。
白い壁は、しんと静まり返っている。
身震いを感じるほどの空虚さを感じ、部屋の外へ駆け出した。
扉は勢いよく開け放たれ、壁に当たって跳ねた。
そこに、彼はいた。
「………沖田先生」
毛布にふるまって、寒そうに縮こまっている。
セイはすっと目の前に座り込むと、その目を覗き込んだ。
隈があることを確かめて、眉をひそめる。
「まさか、此処で寝たんですか?」
総司は答えない。
無言のまま、気難しく眉をひそめていた。
「…あのですね、私、剣術を多少やってるんですよ」
「は?」
あまりに唐突な総司の会話に、今度はセイが眉をしかめる番だった。
けれども総司はおかまいなしに語りだした。
「だからですかね、人の気配には人一倍敏感なんです。そうです、だからきっと、貴方がちょっとでも動こうものなら、
こう、息をのむような構えをしてしまうようで、それで…」
「…ようするに眠れなかったんですね?」
セイのずばりといった口調に、総司はいまだ眉をひそめながらこむずかしい顔をしていた。
なんだか納得いかないような表情ではあるが、考えながら答えてみせたようだった。
「……はぁ、まあ、そういうことに……なりますかね…?」
「でも、今まで普通に寝てたじゃないですか」
なのに何で?とセイは言ってみせると、
「……………ですよねぇ?」
総司は重そうな瞼を精いっぱい上げて、新発見とでもいうかのようにセイを見直した。
朝から何なんだ、とセイはぼんやり呆れた顔をしてみせるが、効果は無い。
その後、セイはそのまま廊下でこんこんといかに総司が眠れなかったかということについて聞かされた。
ようするに、眠れなかった理由を知りたいらしいのだが、そればっかりは知るかというのがセイの正直な感想である。
土方が起きてきて、近藤も食事をとり、原田がやっと歯磨きを試みた頃になっても、その疑問は解決されないらしかった。
そうして、それを見かねて会話を遮ったのは、土方だった。
「…総司、お前ちょっと寝てこい、ひでぇ面してやがる」
いつのまにそこにいたんだと、セイはうんざりといった顔を上げた。
ずいぶん座り込んで話を聞いていたのだろう、廊下についた尻は少ししびれていた。
「…あいつは考えるのが苦手でな」
「…そのようですね」
セイは、土方の意見に、あっさり同意した。
そのまま総司がふらふらと眠りにいった部屋へ、土方が断りなしに入っていくのを、セイはぼんやりと見つめた。
----続く----
なんか最近和が好きでねぇ…もう歳かしらねぇ…