落海





ゆりかごに揺られているのだと、思った。



あまりに、それが、暖かいから。













ざ、ざ…ざ…、…ざ……





その小さな揺れは、まるで安心しておくれと、母親が子に歌うような、そんなやさしさに近かった。

















瞼が、重い。



重すぎて、それを持ち上げるのがおっくうだった。





でも、どうしても、その揺れが、ゆりかごなのかどうかを確かめたくて。









目を、開いた。





半分まで。









そうして、すぐに、ゆっくりと、目を閉じた。















見えたのは、背中だった。







誰の背中かは、わかっていた。











ただ、その背中の感触が、ずぶ塗れていたことには、今、気付いて。















ゆるりゆるりと歩く歩調は、セイをいたわるようで。















ゆっくりと自分の体が降ろされて、どこかに横たわったことがわかった。















岩の、冷たい感触が、セイの体を震わせた。











「………此処…何所ですか………?」











その人は、自分の視界をさえぎるように、前に座ると、ごそごそと肘を動かしながら、応えた。











「さあ…何所でしょうね」













ぱちぱちと、火の燃える音がした。





セイは、その遮られた風景を、確かめたくて、体を持ち上げた。





そうしてずるずるとその人の隣へと移動する。











そこには、ひらけた海が、どこまでも、どこまでも、広がっていて。













森も一面に見渡せた。







それだけで、此処は、ずいぶんと高いところなのだということがわかる。











その岩場は意外に狭くて、まわりには、崖が切り開くように反りたっていた。

















うしろで、ばたばたとはためく音。









ふりかえると、そこには、太い、木の幹に青い布が、風に揺れていた。







どこかの映画で見たことあるなと、セイは漠然とそれを眺める。





それは、シャツだった。



青く、すりきれて、色褪せた。







そうして、隣にいるその人の、半袖姿を、まぶしいものを見るように、眺めた。















目の前にいつのまにか用意されていたスープがコポコポと泡をたてると、目の前で、湯気が風にさらわれていく。

















それを、無言で、飲んで、セイは泣いた。









涙が、スープに落ちる。











それでも、セイは、スープを飲み続けた。







セイのズキズキと痛む右肩には、ぼろぼろの布が巻き付いていた。





隣の人の半袖は大きく破かれていて、切れ端がひゅるひゅると風に揺れている。



















「ね、見てくださいよーーーーーーーーほらあの…太陽。





落ちていくの、速いでしょう」









淡々と、楽しそうにいうその人の声。





それは、暖かく、風にさらわれて。









に、見えます?あ!落ちた!ーーーーーーーーーーーーーーーーー」







楽しそうに、笑いを含んだ、その声。



















スープの湯気の向こうで、海にもぐる太陽。

















「————————が、落ちているように、………見えません?」











ね?といわんばかりにくるっとセイを見る、その人。





























セイはその瞳は見ずに、その落ちた海を見つめながら、スープを両の手に持ち、聞いた。





























「———————いつから、此処にいるんですか?」

























波の音。









落ちた海。

















「3年前くらいから、—————ですかねぇ」

















奇麗な、無人島。

























----続く----

第一章、完結ー!!パチパチパチー!!!