落海





ふっと目を開けてから、気付いた。





少し眠ってしまっていたことに。



この雨の中、何故眠れたのだろうと考えるが、頭がぼぅっとしていてかなわない。



足元がふらつく。



ゆっくりと足を運ぶ。









何故歩くのか、もう、わからなかった。









ただ、歩き続けた。







そうして、気付いた。









二つの光が、ぎらりと光って、自分と同じ歩幅で歩いていることに。









息を呑む間もなく、セイは右膝をついた。











それは、まるでスローモーションのように、ゆっくりと、時間を止めていった。







駆け出した、獣の足と、泥の跳ねる音。







頭を低くすると、その上で木に何か堅いものが当たった音がした。





それが牙だということは、セイにはわからなかったが、そのままバランスをくずして倒れ込む。











お互いの息が、白く、湯気をたてて空に舞った。







セイの肩からは、紅い鮮血がにじんでいた。





数本の、長い傷痕。









セイの手の内には、湿った木のぬくもり。







それが、見ず知らずのうちに、セイの手中から躍り出た。









散る鮮血。













何故か、それを懐かしいと思った。













そうして、そのまま、ぼやける視界を掴むように、手をにぎると、目を閉じた。









頭が濡れた土に横たわったのがわかった。





暖かいと思う。



ゆっくりと目を開ける。







そうして、目の前で、苦しみもがく、ヒョウを、なんとなく見つめる。





大きなヒョウの目からは、血が流れていた。





それから、泥を跳ね駆ける音。







ヒョウが、ひどく情けない声を出して逃げていった時にはもう、セイは意識を手放していた。



















小さな槍の、ぬくもりをにぎりしめて。

























----続く----

シリアスな展開続きでゴメンナサイ…!