連れていかれたのは、なんとか一人入るか入らないかくらいの、小さな洞窟だった。
そこには、大きな葉が幾分も重ねられた簡易な寝床と、火をつけるのだろう焚き木が組み込まれてあるだけの、
簡素な場所で。
そこに連れてこられても、困惑した表情をおもいっきりしかめるしか手はなかった。
「私はもう一つのところに行きますから」
丁寧にその洞窟での過ごし方を話してくれたようだが、耳に入らなかった。
そうしてやっと、気付いた。
「もう一つのところ?」
顔を上げる。
まさか。
此処で一人で寝ろというのだろうか。
「なんです?」
男はきょとんと首をかしげて、疑問そうな顔をするが、口が開かない。
なんて言ったらいいんだろう。こういう時。
こんなところに、一人でなんて、考えられない。
だって、そんな、あまりにも急で。
「名前は」
やっと出た言葉がそれだった。
何故だかわからないが、とにかく引き止めなければならないと、その言葉が口をついた。
「ああ」
その目の前の人の良さそうな顔は、そっかというように目を丸くする。
「沖田総司です。貴方は?」
「………神谷セイ…です」
オキタ、オキタと頭で反芻しながら、セイは答えた。
頭がこんがらがってかなわない。
「あ。」
ふと思い出した。
「数学の担任の先生と同じ名前」
「え?」
洞窟は暗いが、なまあたたかく湿った匂いがした。
「オキタ先生」
「ははっ」
笑った。
何故かうれしかった。
「じゃあ、沖田先生でもなんでも、呼んでください」
そう言って。その人は洞窟の外に踏み出して、一つつけくわえた。
「あ、ここらへんトラがいるんで気をつけてくださいね」
そうして消えいるようにその人は去っていった。
「数学の先生、あんまり教え方上手くないんだよね」
そう一人でつぶやく。
そうしてからやっと、、あの人を引き止めるのを忘れたことに、気付いた。
----続く----
もうしばらく訳わからぬワールドをお楽しみ下さい(え)