少女は、麦茶で喉を潤しながら、落ち着き払ってソファに座っていた。
「…此処にあんたが住むってか」
向かいのソファで、なんだか恐い顔をした大きな男は考えるように眉をひそめていた。
妙な貫禄を持ったその男は、だらりとした青いシャツを身にまとっていて、それがなんだかひどく似合っていた。
「はい」
セイは明るい笑顔でにこっと笑った。
「………」
「………」
しばらく、ふたりの目が時を止めたかのように勇み合っていた。
そして、やっと、男が折れたように肩を降ろした。
「……帰る気はねえってつらしてやがる」
「はい」
きっぱりとそういう少女は、笑顔であった。
「…好きにしろ」
男は諦めたように、手首をしっしっと振った。
「はい!有り難うございます!……えっと」
少女は凛とした態度で、そのあしらいに応じる。
「……土方だ」
「はいッ」
セイは、すっくと立ち上がって、ぺこりと頭を下げた。
「よろしくお願いいたします!」
「……ふん」
土方は鼻を鳴らした。
セイはにこにこと上機嫌で廊下に出る。
ひどく狭い廊下だった。
「うぷッ」
セイはぼふんと何かにぶつかった。
鼻をおさえる。
そこには、先ほどの、いきなり抱き着こうとしてきた失礼きまわりない男が、
壁に寄りかかるようにして、腕を組んで廊下を塞いでいた。
「……貴方」
セイは心なしかむっとして
「神谷セイです」
と答えた。
「……神谷さん。」
男がふうと小さくため息をついた。
「駄目でしょう、こんなところに独りで来ちゃ」
それは、小さな子供にするような話し方だった。
「?」
セイは何の事かわからず眉をしかめる。
「此処は全員、男所帯なのを知ってるんですか」
困ったような顔をして、青年が諭すように話す。
「今からでも遅くは無いですから、家へ帰りなさい」
セイは、じいいと青年の目をみつめていた。
青年は白いシャツをゆったりとまとい、その長い袖を少しまくっていた。
外の淡い光がその青年の白いシャツを照らして、揺れる。
正直、青年は心なしか緊張していた。
実は、先ほど自分で言ったように、ここは男所帯で、女子とは縁が無く、
ろくに関わることも無く、それを当然のようにしてきたのである。
そこを勇気を出してまちぶせていたのだ。
しかも、目の前にいる少女は、眩しいほどにかわいらしい。
気付かれないように、小さく緊張のつばをごくりと飲み込む。
その可愛らしい少女が、自分をじっとみつめているのが、耐えられなくなってくる。
「……で、ですから…そこまで、送りますから」
視線に耐えられず、青年は目をそらした。
そわそわしだした青年に、少女が、無言のまま首をかしげた。
「……っ」
その様子のかわいらしさといったら、それはもう、青年に喉をぐっとつまらせたほどであった。
「……帰りますよ!!」
ああもう!とばかりに背を向ける。
「はやくしないと原田さん達が……」
青年は慌てていた。
他の住人に見せてはまずいのである。
この、小さな少女を。
が、もう遅かった。
ばーーーーんっと大きな音が、小さな屋敷に響いた。
びくうっと青年が肩を躍らす。
「おーう原田さまの御成りだぁーーーー!!!!」
青年は額に手をやり、うなだれた。
----続く----
初夏はだいすきです★
若草色が濃くなるのってなんかいいですよねー。