初夏





セイは、学校が終わってもすぐには帰らなかった。





それが当たり前かのように、しばらく机に頬をついていた。





白いカーテンが、さらりとセイの頭上を仰ぐ。



それから、一枚の白い紙を取り出した。



真っ白い紙は、何も書かれていないかわりに、汚れていた。





セイの目からは、一筋の涙が落ちた。







それは、机に、ぽたりと単調な音をたてて落ちた。







涙はそれ以上落ちなかった。















ふと、後ろに気配がした。



さっと後ろを仰いだ時には、もうそこに、人が立っていた。



「…沖田先生」





総司が、自分の手の内のものに、さっと目を注いだのがわかった。



その目の動きに、手に持つものを隠すのを忘れたのにきづくと、セイは顔色を変えた。





聞かれるだろうか。



嫌な寒さが背につたう。









けれども今からそれを隠しても余計に怪しまれるだろうと思い、動けなかった。





「…神谷さんあなた」





総司の声が教室に響く。





セイはみじろぎせずに総司をじっと見つめた。









けれども、総司の口から出たのは、













「アイスちゃんと食べました?」







と、突拍子も無いことだった。















「は?」





さすがのセイも、口を開けずにはいられない。









「だって、あのあと食べるっていったって溶けちゃってたでしょう?」



そういって口を尖らす目の前の人。











「…す・みません」



セイはぎこちなく謝った。



「…じゃあ次は神谷さんのおごり♪」



そう楽しそうに背を向ける総司を、セイはいまだ動けずに見守っていた。





これに気付いたはずだ。



それから、自分の顔にも。





それは確かであった。









この人が、好きだ。









それは、セイにとって、まだ特別な感情では決してなかった。





だが、そう思った。











空は、群青色へと色を落としていく。





それから、カーテンが、誰もいなくなった、その教室になびいた。











窓の下に、二人並んで歩く教師と生徒の姿が、そこにあった。























----続く----

なんか長くなりそうですよこの話!!!あちゃー!!