初夏





独りで長い髪をなびかせて、屋上に立つ彼女。



すぐにわかった。



立ち住まいが、奇麗だったから。



「♪」



ゆっくりとした足取りで、屋上へ向かう。



戸を開けると、きいと錆びた音がした。



その音に振り向かずに、景色を眺め続ける少女。



そんな後ろ姿に、明るい声でたずねる。



「アイス食べますか?」







そして振り向くその姿は、あまりにもかわいらしいので、目を細めた。



「…何アイスですか?」



そう答えるセイの表情に、嫌がるような節が見当たらないのを確認すると、



バニラアイスを突き出した。



「はい♪おいしいんですよ、コレ」



「…………ありがとうございます………」



はにかんだように言うセイに、ふふっ、と笑うと隣に背を預けた。



そうして自分はチョコレートアイスをぱくつく。







「…ああ……」



総司はおもわず感嘆した。



少女の視線を感じながら、空を仰ぐ。





「……空が青いですねぇ……」



少女の視線が空に向けられるのが、見なくともわかった。









「空、お好きなんですか?」



セイが、ふとしたようにたずねてきた。



「…神谷さんは嫌いなんですか?」



アイスをなめながら不思議に思って、そう聞き返した。







「…………」



答えないので、疑問そうな顔をして見せた。



少女が口を開けそうになった時、チャイムが鳴った。





チャイムの機械音は、無造作に学校中に響き渡る。



「あっ?!まずい!!土方さんに怒られる!!!」



総司は慌ててアイスを口に押し込むと、走った。



どうやら土方さんもこの学校の教師らしいことを頭で理解して、総司の慌てる姿をぼーっと眺める。





「か、神谷さんもはやく教室に入らないと、土方さん恐いんですから!!」



注意の仕方が微妙にずれているその声に、呆れたようにセイが笑うと、



「はい」



と返事をして総司の後ろを走った。



「あっ、頭いたっ」



アイスのせいで頭痛をうったえる総司の姿に、セイの明るい笑い声が廊下に響いた。



「自業自得ですよ、沖田先生」



「神谷さんたらずるいっアイス全部食べないんだもの!」



「あとでこっそり食べます」







廊下にうわばきの跡が四つ重なる。









「きりーつ!」



途中通りすがった教室から聞こえる声を、聞き流しながら、セイは走った。



それから、



「もう間に合いませんね」



と、おかしそうに総司をからかった。



















----続く----

トゥーブラザーズっていう映画、良いですなぁ…