初夏。
蝉が鳴いていた。
ミーンミーン……ミーン…………
青い空に入道雲。
どこまでも広がる畑達。
かたかたと音をたててトラックが草を踏んでいく。
ほっかむりをしたおばあさんが、草を刈って、腰をたたく。
白い蝶々が、ひらひらと頼りなさそうに飛んでいった。
「ふう……」
どさッ、と大きな音をたててかばんが駅前に置かれた。
ぐいと汗を吹く。
そうして、照り光った太陽に目を細めた。
はたはたと黄色いスカートが揺れる。
「すっごい田舎……」
うれしいような呆れたような声を出して、よいしょと荷物を持った。
ゆっくりと歩を進める。
のんびりとした、田舎まち。
ひまわりがもうたくさん顔を向けていた。
「…すごいひまわり畑」
あまりのひまわりの大きさに、少し歩をゆるめる。
ぼう、と見とれながらふらふら歩いていると、ザッ、と音がした。
「?」
その音に反応したときにはもう遅く。
少女は、倒れてこんでいた。
「い…たぁ……ッ」
顔をしかめて、何事かと頭をおさえる。
「す、すみません!!大丈夫ですか?!」
一匹の白い犬が、わふわふと息を切らしながら少女の顔を舐めている。
そして、目の前には、真っ黒い瞳。
風が、いきなりザアアと大きく揺れた。
うぷ、と自分の髪に顔をしかめる。
目の前が、よく見えない。
「ほら、やめなさい」
やさしい、声。
犬が、引き剥がされた。
名残惜しそうに、犬はもうひと舐めすると、走り去っていった。
「はい、だいじょうぶですか?」
そんな声と、くわがぬっと目の前に現れた。
「?!」
少女はびっくりしてあとずさる。
「あ、ああ、すみません間違えました」
慌てたような、照れたような声。
そうして、くわの替わりに大きな手が差し出された。
おそるおそる手をとる。
視線を上げるが、光が反射して顔がよくみえなかった。
そして、立ち上がってから、また驚いた。
思ったより、若かったのである。
泥だらけの精悍な顔に、白いタオルをまいて、その人はやさしく笑っていた。
「総司————!はやくしやがれ!!」
ふいに、誰かの声がした。
「あッ、はい、今いきますよー」
慌てたようにその青年は後ろを振り返った。
「それじゃあ、失礼しますね」
汗だくの青年は、ぽん、と少女の頭を叩くと、ひまわり畑の中へ消えていった。
少女は、ふうう、と肩を落とすと、スカートの砂を払った。
「…意外に若い人もいるんだなあ」
おじいちゃんおばあちゃんばかりだと思っていた少女は、少し笑うと、
また歩を進めた。
汗だくにした泥だらけの顔を思い出して、太陽に目をやった。
「…あれだ!」
少女は眩しそうにそのくりっとした目を開いた。
ずいぶん歩いたので、足が少し痛い。
それは、木造の小さな屋敷。
「?」
インターホンが見当たらない。
「ん〜〜〜?」
取っ手に手をかけると、鍵がかかっていなかった。
かちゃりと音がする。
そうっと開けて、おそるおそる中を覗いた。
ぎぎい、と湿った音がした。
その時、明るい声が降ってきた。
「あッ、おかえりさな〜い!!!!」
どたどたどた〜と駆けてくる足音。
その騒がしさに少女はびくっと、肩を諌めた。
「もうッ、さみしかったんですよう!」
そんな声に、広げられた大きな腕。
「うわッ!」
危機を感じた少女は、荷物をばんッ!と目の前に突き出した。
広げられた腕はむなしくからぶりする。
「…落ち着け総司、そいつは近藤さんじゃねえ」
奥から、不機嫌そうな声。
「……誰だそいつぁ?」
「……えッ?」
上から、びっくりしたような声。
扉から飛び出てきた張本人は、顔に突き出された荷物を抱えて、ひょいと顔を傾げてきた。
「今日からお世話になります、神谷セイです!!!」
少女は、いきなり飛びついてきたぶしつけなオトコに、怒った声色を隠さずに、はっきりと叫んだ。
「夏休みの間だけお世話に……ってあ!!」
「あ!!さっきの娘さん!!」
少し長い髪を一つにたばねた青年。
目の前の男は、ひまわり畑の青年であった。
二人は驚いて目を丸くした。
「…何だ、おめえら知り合いか?」
奥の廊下にもたれかかっていた男は、眉をしかめた。
少女の、長い夏休みが始まる。
----続く----
初めての連載〜〜!!ステキーー!!