蛍(総司)
蛍を見にいきましょう。
そう誘ったのは私です。だって、月がとても綺麗でしたから。
薄暗い森の中をさくさくと歩きながら、私は後悔していました。
男女で、しかも二人きりで、夜道を歩くもんじゃないですね…。
もう、正直、なんだか後ろの神谷さんの息づかいに、体がむずむずしてしようがないんです。
いや、それはまずいです。しっかり自分を保たなくてはなりません。
目的は、蛍です、蛍。
「沖田先生、今日は無口なんですね。」
その言葉に、もうびっくりして、私は自分が何もしゃべらずに歩いていた事に気づきました。
振り向くと、可愛い可愛い神谷さんの顔。し、しっかりしなければなりません。
「あ、あっ、すみません、神谷さん。」
「いえ、…沖田先生、何かありました?」
「な、何もありませんよ。ただ、蛍がいないなあって…」
「…そうですか?」
うまくごまかせましたかね。なんだかまだ疑問があるような目をしていますが…。
いけません。これ以上神谷さんの顔は見れません。
そう思って私はまた歩き出しました。
そのとたん、後の神谷さんが、転んでしまいました。
「あっ。」
「だいじょうぶですか」
ああ、神谷さん。そんな格好をしていると、襲ってしまいますよ。
私は、もうそんな思いが嫌になり、はやく神谷さんを立たせようと手を差し出しました。
その時。
白いウサギが、さっと、走っていきました。かわいいウサギですねと言おうとしたら…。
「きゃあ!」
神谷さんが、しがみついてきたんです。
「い、今の白いの、何ですか?」
神谷さん…。
それはわざとなんですか?勘弁してください。
体が反応してしまったじゃないですか。
もう、そんなかわいい顔で見上げないで下さい。もう、限界なんです。
神谷さんはなお色っぽいため息を吐くと、
「せんせえ…?」
と首をかしげてきました。ああ、もう、神谷さん。
「…もしかして、先生…?」
「えっ?!」
私は背中が凍りつくような気がしました。
まさか、私の体のことに気づいたのでしょうか。
私は、もう恥ずかしくて、たまりませんでした。
「きづかなくって、すみません」
ああ、やっぱり。謝られると、よけいみじめです。
神谷さんてば、男ごころがわかってないんだから。
もう、私の顔は熱くて、私は恥ずかしくて。
「大丈夫です、先生。でも…」
でも、何ですか。もう、私は自分が嫌になってきてしまいました。
どうして男ってこうなんでしょう。
「で、でも、なんですか?」
なんとか、私は泣きそうになりながら答えました。
しかし。
私はびっくりしてしまいました。
「すみません…、私もなんです」
神谷さん。今の言葉を紡いだのは、神谷さんですか?
そんな、まさか。
「ええっ?!」
びっくりしすぎて、素っ頓狂な声をあげてしましました。
「なんですかソレ」
神谷さんは、可愛く私をにらむと、恥ずかしそうに言いました。
「い、いえ、…そうなんですか?」
聞き違いではないようです。緊張のあまり、おもわず手に力がはいってしまいました。
「ええ、だから先生も、がまんしなくっていいんですよ」
神谷さん……!
私は、もう我慢の限界でした。神谷さんを必死で抱きしめました。
神谷さん、私がおろかでした。
そうですよね。神谷さんだって年頃の娘です。
こういうことは、男女ともに共通なんですね。
私は、もう、最後の理性のたががはずれそうになるのを感じました。
しかし、急いてはいけないと、神谷さんのぬくもりにひたりました。
可愛い笑い声がすると、私の耳元で神谷さんはささやきました。
「先生、じゃあ蛍はあきらめて帰りましょう」
帰る!!
そうでした。気づきませんでした。
そうですよね。こんなところでなんて、神谷さん、嫌ですよね。
ああ、私ったら。
どこまで野暮なんでしょう。
「あ、そ、そうですよね。すみません。きづかなくって」
私は慌ててあやまりました。
「ええ」
ああ、神谷さん、あなたはどうしてそんなに可愛いんでしょう。
私は、神谷さんに安心してもらうために(私はおとこですから、しっかりしなければなりません)、少しほほえむと、神谷さんの小さな手を結び、歩き出しました。
はやく、帰らなければいけません。明日の朝も、早いんですから。
私は、浮きだつ足取りを感じつつ、月の中帰り道へと急ぎました。
つないだ手のぬくもりに、また理性を保ちつつ、私はほほえみました。
<その後>
神谷さん、そりゃあないですよ。
こちらはセイ
とセットになっています。