おかしなふたり 連載71〜80

第71回(2002.11.11.)
 変化は待ってくれなかった。

 いつもの様にむくむくむくっ!とお尻が大きくなり始めていた。
 もしもマジマジと見られれば・・・ば、バレてしまう・・・。
 いつもよりも心臓がバクバク言っていた。
 平均サイズで言えば、同じ身長の男性に比べて唯一上回るのがヒップサイズである。
 男ものではお尻がきつくて入らないこともあるのだ。
 すぐに直立不動になって何とか平静を装う。
 だ、大丈夫。バレて無いバレて無い・・・。
 直立不動になるともう、その胸は盛り上がってパンパンだった。
 いや、そんなに「巨乳」な方じゃないんだけどその今までに比べると・・・って何を考えてるんだ!
 ・・・心なしか身長が低くなった様な気がする。
 さ、聡(さとり)ぃ・・・何を考えてるんだよぉ・・・。
 今まで何度も泣きそうになって、実際泣かされているんだけど、今度という今度は本当に悪質だった。
 でも・・・
 考えてみると、これで分かったことがある。
 そう、“遠隔操作”が可能な事が分かったのだ。
「・・・んっ!」
 股間の間のものがシュシュシュッ!と身体の中に吸い込まれていった。


第72回(2002.11.12.)

 半分自暴自棄だけども、なんとか楽観的な方向に思考を誘導しようとする涙ぐましい努力を続ける歩(あゆみ)だった。
 その・・・これまで何度も性転換されたけど、制服に合わせて髪は長かったり短かったりしたんだしその・・・
 完全に身体が女の子になっちゃったとしても髪が短ければきっとバレ無い・・・バレ無いよきっと。
 落ち着かずに何度もまばたきを繰り返す歩(あゆみ)。
 それにしても電車の中ってのは本当に最悪である。
 もしもこれが街中だったりしたらその場を離れてしまえば何とかごまかす事は・・・出来るかな?
 ともかく自由に移動だけは出来る訳だ。
 「他人が大勢押し込められた密室」なのだから・・・。
 でも、乗車率200%を越えるラッシュ時にあのパンツの見えそうな短いスカートの制服姿の女子高生に変えられたりしたら・・・。
 更にその上に痴漢にあっちゃったりして・・・
 想像しただけでゾ〜っとした。
 それに比べればマシ?そ、そんなぁ・・・。
 その時だった。

 頭髪の毛根がムズムズし始めた・・・。


第73回(2002.11.13.)
 ま、まさか・・・か、髪・・・まで・・・
 考えている間も無かった。
 ぐんぐんぐんっ!と伸びた黒く美しい光沢を放つ髪がさらさらっ!と流れ落ちていった。
「わ・・・」
 必死に押し殺した上での声だった。
 隣の車両の座席に座っていた女性と目が合った!
 まん丸に見開いた目でポカーンとしている。
 思わず「ち、違うんです!」というジェスチャーをしそうになるのだが、なんだか間抜けである。大体何が「違う」のか。
 もう顔から身体つきから完全に「女の子」だった。
 だぶだぶの制服に腰まで流れ落ちるさらさらの黒髪・・・
 歩(あゆみ)は写真に収めたくなるほどの可憐な美少女となってしまっていたのだった。


第74回(2002.11.14.)

 そ、そんなあ・・・
 これじゃあ完全に女の子だってバレちゃうじゃないか!
 ・・・実は髪の毛が短ければ短いで犯罪的に可愛らしいショートカット美少女の完成なのだが、本人にその自覚は無いらしい。
 ・・・そこが余計に可愛いのだが。
 というか、このままで済むはずは無いのだ。
 それはこれまでの経験で分かりすぎるほど分かっていた。
 い、一体どんな格好に・・・って早く駅についてくれええぇっ!
 男装の美少女はひたすら祈っていた。
 せ、制服かな?
 制服ならなんとか・・・そのやれ北海道とか九州の制服とかだったらちょびっとマズイかも知れないけど・・・ここだけの話、最近のブランドもの制服なんてどれも似たようなもんだから大丈夫だろう!
 ・・・と思い込むことにした。
 まあ実際かなりの制服を着たけども、中にはどこが違うのか分からないのも沢山あった。
 だ、大丈夫大丈夫!
「・・・あっ・・・」
 目の前の若者はぐーすか寝ていた。
 だが、その隣の人は、さっきまで吊革につかまっていた男子校生の異変に気付き始めていた。


第75回(2002.11.15.)

 やはり髪が伸びたというのはかなりのインパクトがあるみたいだ。
 もしも最善の方策を模索するのならすぐにその場で髪の毛をまとめて縛り上げるなりするべきだったのかもしれない。
 ・・・が、肉体が変化し終わった歩(あゆみ)の身に降りかかる事態は、次は男子校生の象徴を奪い去ることだった。
 いつもの様にむぎゅう!とその大き目の乳房が押さえつけられる。
「・・・っ!」
 でもこれはいつものことだった。
 実は生粋の女であるコントローラー、つまり聡(さとり)・・・この現象の全てを司る妹・・・は“下着”にも興味があるらしくて、制服と共に下着も毎回毎回違うタイプのものを着せられていたのだ!
 ・・・どうも大変な生活をしている気がしてきた。
 恐らくこれだけ沢山の種類の女性物の下着を着たことがある人間は同世代では皆無なのではあるまいか?
 それこそモデル業でもやっていない限り無理だろう。
 ・・・というか男でそんなのはいない。絶対にいない。
 ある時はただの(?)ブラジャー、ある時は“寄せて上げて”・・・


第76回(2002.11.16.)
 今日はブラジャーからパンティ部分まで一体になっているタイプのものだった。名前なんて歩(あゆみ)は知らない知らない。
 それが胸のみならずアンダーバストや胴回りまで締め付けていく・・・。
「・・・あ・・・あっ・・・」
 目の前の学生さんは寝ているみたいだけど、その隣のサラリーマン風の頭の寂しくなったおじさんは明確に起きている。
 男装して何だか悩ましげな表情で搾り出す様な声を上げているこのヘンな女の子に対して何を思っているのだろうか・・・。
 今日の「締め付け」はいつもにも増して強烈だった。
 「女の子」としての歩(あゆみ)はどちらかというと痩せている方だと思う。てゆーか聡(さとり)がスタイルの悪い女の子になんかするはずがないのだ。
 その体躯をここまで締め上げる理由は何なのか・・・
 下腹部まで完全に一体化した下着が包み込んだ。
 ・・・ふう、と息をついてしまった。
 メリハリのある体形にそのダブダブの制服に流れる黒髪。そしてその可愛らしい顔立ち・・・とどうみても“美少女”の歩(あゆみ)だったが、一応「男子の制服」を着ているという建前はあった。
 しかし今やその「男子の制服」の下は完全に「女性の下着」に覆われているのだ!
 もしも今ここで服を剥ぎ取られるようなことがあれば、その本格的な下着姿を晒す事になってしまうだろう。
 歩(あゆみ)は困惑した。


第77回(2002.11.17.)

 髪を振り乱して車内を見渡す。・・・というかこの長い髪に小さな身体では、ちょっと首を回すだけでそうなってしまうのだ・・・。
 車内でこの「異変」に気が付いている人は・・・半々と言ったところか。
 他に立っている人間だって皆無じゃないし・・・ガラガラで座席が辛うじて埋まっている程度だけども・・・
 きっとみんな“見て見ぬふり”をしてくれているんだろう。
 このまま・・・このまま駅までたどり着ければ・・・。
 でも待てよ。よく考えたら今は女の子の身体になっちゃってるんだ。もしも制服で女装させられたとしてもそれはそれで“あり”なんじゃないか?別に制服着ている女の子なんて珍しくないし・・・。
 まあ、それこそ中年女性がパンツが見えそうなミニスカートのセーラー服を着ていたりすれば衆目は集まるかもしれないけど別に犯罪じゃない。
 これが男なら・・・確かに問題だけども。てゆーか、確かに目の前でついさっきまでの「男子の制服を着た男の子」が「女子の制服を着た女の子」に変わっちゃうというのは大変な異常事態だけども・・・逆に言えば異常事態過ぎて誰もちゃんと認識出来ないだろう。
 目の前で着替えたというんならともかく・・・。
 その時だった。


第78回(2002.11.18.)
 靴の中のつま先に違和感を感じた。
 ・・・今回はちょっと変わってるな・・・と思った。
 恐る恐る足元を見てみる。
 ばさり・・・と長い髪の毛が邪魔をする。
 外見は特に変化は無かった。
 だが、明らかに足首から下の感触が違ってきている。
 これは・・・?
 ま、まさか・・・ひょっとして・・・
 靴下の感触が薄っぺらくなっていった・・・。靴の内側の形がより鋭敏に皮膚に伝えられる。
 す、ストッキング?・・・なのか?
 変化はワイプを掛ける様足の裏から足首、そしてその上へと這い登ってきていた。
「は・・・あ・・・」
 長ズボンの内側で靴下がストッキングに置き換わっていく・・・。


第79回(2002.11.19.)

 電車の中というのは意外に音がうるさい。
 ガタンゴトンという音などでひっきりなしに何かが鳴っている。それに他人が大勢押し込められているという性質上、いちいち他人のことをそれほど気にはしていられない。
 もしも歩(あゆみ)が、目の前に立っていた人が何やら悩ましげな表情で息を荒げていたらどうしただろう?と考える。
 ・・・多分何もしないと思う。
 いぶかしげな表情で覗きこんだりすればいらぬトラブルの元である。最近では電車内も物騒で些細な行き違いから殺人事件まで発展するケースもあるらしいではないか。
 そして「どうしたんです?大丈夫ですか?」とも言わない。
 都会は他人との関わりを必要が無ければ拒絶する。もしも歩(あゆみ)が今目の前にいるサラリーマン風の人の立場でも「大きなお世話」と考えて何も言わないと思う。
 ま、確かによくよく見ていれば、目の前で髪の毛が生き物の様にぐんぐんぐんっ!と伸び、その身体は少女のものになっている。
 だが、それがどうしたというのか?
 自分に関係が無いのならどうでもいいではないか。



第80回(2002.11.20.)
「あ・・・あ・・・」
 この声は歩(あゆみ)の頭の中に響いたものである。外に出ることを歩(あゆみ)の理性が押しとどめた。
 ズボンの中の脚の表面をぴっちりとしたストッキングの束縛感が下から上に向かってラッピングしていく・・・。

 せいぜいふくらはぎの中ほどまでの高さしかなかった靴下がその触手を伸ばし、膝を覆い、ふとももを抱きしめて行く・・・。
 これまで着せられていた「制服」はミドルティーンからハイティーンの女子が身に付けることを前提にデザインされたものばかりだったので、職業の制服の様にストッキングがその一部として付属しているものは殆ど無かった。
 数は少ないが、一応ミニスカートの下に黒いタイツで脚を多い尽くすタイプの制服もあるにはあった。が、2〜3しか記憶に無い。ほぼ全ての制服において歩(あゆみ)はそのカモシカの様な健康的な素足をスカート越しに直接空気にさらし続けていたのである。
 こ、これが・・・これが・・・ストッキング・・・
 そのさらさらの束縛感はふとももの上にまで達した。