おかしなふたり 連載51〜60

第51回(2002.10.22.)
 結局セーラー服は、部屋を出た瞬間には煙の様に消えうせ、元の部屋着に戻っていた。勿論身体も男の物に。
 しかし、泣いている姿がみっともないのですぐに部屋に駆け込んだ。
 多分聡(さとり)が元に戻したのだろう。核心は持てないが。
 歩(あゆみ)はなんのかんの言っても人が良かった。“お人よし”と言っても良い。
 部屋に飛び込んだ歩(あゆみ)は、先ほどの女体の余韻に浸りつつ、聡(さとり)を元に戻してなかったな・・・と思いながらそのまま眠りについた。何しろあんなことがあった直後である。こちらから出向くのもおかしいし、一応喧嘩したみたいなことになっているのだから1〜2日は口を聞かない位がマナー(?)だろう。


第52回(2002.10.23.)
 兄妹というパターンの家族は珍しくないが、その仲は大抵最悪なほど悪い。
 男と女で価値観が食い違うこともあるし、近い年代の兄弟は男女の取り合わせに関わらず仲がいい方が珍しい。
 歩(あゆみ)や聡(さとり)の友人、知人たちにも兄弟姉妹は大勢いるが、中には怒鳴りあいに留まらず殴りあう仲も珍しくない。兄が妹を喧嘩の果てに階段から突き落としたりした話すら聞いたことがある。
 ・・・そしてこの兄妹が、そうした友人・知人に決まって言われるのが「お前(あんた)の兄(妹)はいいな〜」であった。
 確かに軽い口喧嘩は日常茶飯事だったが、それ以外は特に深刻な喧嘩をした記憶があんまりない。CDや漫画などは2人の共有で、特にどっちのものということもない。
 友人たちが、兄弟姉妹間で金銭貸借や、CDなどを売買していると知った時の衝撃はかなりのものだった。


第53回(2002.10.24.)
 脚・・・というか下半身が何とも頼りないというか・・・。
 歩(あゆみ)は仰向けになっていた。
 その脚をするりとこすり合わせる。
「ひゃっ!」
 思わず声が出てしまった。
「・・・?!!?」
 な、何だ?脚が・・・脚が裸に?・・・てゆーかこの柔らかくてすべすべの裏地は・・・す、スカート?
 がばり!と跳ね起きる歩(あゆみ)。
「あああっ!」
イラスト おおゆきさん

 上半身にぶわり!とその長い髪がまとわりつく。
 そしてその目には健康的な脚線美が惜しげも無くさらされてた。
「あ・・・あ・・・」
 緑色のチェック柄のミニのプリーツスカート・・・そして胸元の赤いリボン・・・。そしてこの盛り上がった胸・・・。
 それは歩(あゆみ)たちの通う高校の制服だった。それも女子の・・・。


第54回(2002.10.25.)
 そ、そういえばこの胸を締め付ける感覚は・・・ぶ、ぶら・・・じゃー?
 恥ずかしくて赤くなる歩(あゆみ)。
 さ、聡(さとり)の奴ぅ・・・夜中に忍び込んでこんな格好に・・・
 思わず胸をむにゅり、と掴んでしまう。
「あう・・・」
 ほ、本物だ・・・本物の・・・お、おっぱい・・・。
 やっぱり夢じゃなかったんだ・・・。
 じゃ、じゃあこのスカートの下は、ぱ、パンティを・・・。
 目の前にあるにも関わらず妄想で頭の中がぐるぐるになる歩(あゆみ)。


第55回(2002.10.26.)
 ばふっ!と布団をかぶる女子高生・歩(あゆみ)。
 じょ、冗談じゃない。こんな姿を人に見られたらそれこそ致命的だ。
 だってその・・・今は聡(さとり)が別の所にいる訳だし、わかんないけど「女装している」ことには変わりが無いし・・・女になってから鏡を見たことが無いけど・・・面影くらいはあるはず。こんな格好をしているところを咎められて何て言い訳したらいいんだ?
 まさか身体を見せて「ほら!女の子になってるんだからおかしくないよ!」とでも?
 ・・・それにしても・・・や、やわらかい・・・な。
 心臓はさっきから激しく高鳴りっ放しだった。
 うつ伏せになっている歩(あゆみ)。昨日は大混乱の中だったけど、その・・・布団に押し付けられる自らの身体の感触は昨日の倍するものがあった。
 慌てて倒れこんだもんだから、スカートは乱れてしまっていた。その短さだからぱ、パンティが直接布団に・・・。
 お、落ち着け!おちつけ!


第56回(2002.10.27.)
 そ、それにしても・・・
 や、やわらかい・・・な。
 ついさっきまで寝ていたんだから存分に味わっていたはずなのにその・・・
 うつ伏せになているので、自分の胸が体重に押しつぶされて・・・
 だ、だから落ち着けって!
 でも・・・脚が剥き出しになってて・・・。
 昨日の晩もそうだったけど、なんて頼りないんだスカートってのは・・・。さ、さとりの奴ぅ・・・
 なんとかして戻して貰わないと・・・いや「戻してもらう」とかいう低姿勢だから舐められるのだ。「戻させる」だ!そうだこれだ!
 そんな中歩(あゆみ)の手はゆっくりと自分のお尻の方に伸びていた・・・。
 自分のだし(?)・・・ちょっとぐらいいいよね。
 いやその・・・きょ、興味あるだろ!興味!
 って誰に向かって逆切れしているのか。
 そ・・・とそのスカートの上からお尻を触ってみる。
 や、やっぱり男のよりもぷっくり膨らんでる・・・のかな?よく分からない。
 てゆーかさっきから何だかいい匂いがする・・・これってもしかして・・・“女の子の匂い”?
 するり、とそのままお尻を撫でるその手。
 スカートのつるつるですべすべの裏地が薄いパンティ越しにお尻に擦りつけられて。
「・・・・・・あ・・・」
「おはよー!お兄ちゃん!」
「ぶわわわわっ!!!」


第57回(2002.10.28.)
 びっくりして布団を放り上げてしまう女子高生・歩(あゆみ)。
「おっはよー!お兄ちゃん!きゃー可愛ーっ!」
 そこには、いつもと変わらぬ装い・・・こんな朝っぱらから制服姿・・・の聡(さとり)がいた。
「あ・・・お・・・お前・・・」
 その先を言おうとするんだけど咄嗟に言葉にならない。
 何と言うかその・・・この格好では機先を制されたというか何と言うか、説得力が無い様な気になってしまうのである。
 経過はどうあれ“女装している”ことには変わりがないのだ。どんなに偉そうにしてもみっともないというか・・・
 だがそれは歩(あゆみ)の思い込みだろう。男の無用なプライドと言ってもいい。大体そんなことを気にする様な妹ではないのだ。
 スカートが乱れ、髪も乱れた“姉”のそばにちょこん、と座り込む“妹”。
「昨日はごめんね。お詫びに着替えて来ちゃった」
 歩(あゆみ)の平凡な思考回路では何をどうすればこれが「お詫び」になるんだかサッパリ分からない。だがこの妹の頭の中ではそれほど不思議でもないのだろう。
「ほら、これで“お揃い”よ」
 と言ってにっこり。
 ・・・何だかもうどうでも良くなってきた。
 今の状況は、昨日と違って歩(あゆみ)の方が背中まである長い髪であるとこだけが相違点である。
 傍目には奇跡の様な“美女姉妹”という風情だった・・・。


第58回(2002.10.29.)
 歩(あゆみ)はちょっと試してみたくなった。
「それじゃあこれでも喰らえ〜っ!」
 ほんの冗談のつもりだった。
 何しろさっき目が覚めた時にはまだ半分“夢”だと思っていたのだ。
 しかしその“能力”は発動した。
「あ・・・」
 しゅしゅしゅっとお互いの胸元にあった女子生徒の制服の象徴である赤いリボンが縮小し、消えてしまう。聡(さとり)のものだけ。
「・・・で、き・・・・」
 「た」と言う前に変化は更に進行していた。
 床に広がったミニスカートは生き物の様に動き、その脚にまとわりついていった。
「わお!これって・・・」
 もううきうき体制の聡(さとり)。
 すぐにそれは男子生徒の長ズボンへと変貌した。そしてシャツのサイズも一回り大きくなり、全体にゆったりする。
 歩(あゆみ)は“止めよう”とは思わなかったんだけど、自分が引き起こしたその“事態”に戦慄していた。
「さ、さと・・・り」
「・・・ん・・・はっ!」
 悩ましい表情になる聡(さとり)。
 その顔だちがほんの少し精悍になり、肩幅が広くなる。
「あ・・・ああ・・・」
 “女の子座り”していた脚を下から出し、後ろにこてん、と転がってしまう。


第59回(2002.10.30.)

「さ、さとり!?」
 可愛らしい女の子の声でびっくりしてしまう歩(あゆみ)。
 ぴょこん、と起き上がってくる。
「ふう!びっくりしたあ!」
 胸の奥がズキイッ!とした。
 その声、その雰囲気・・・間違いなくそれは“男の子”のものだったのだ。
「あ・・・ああ・・・」
 口をパクパクさせて驚くのは今度は歩(あゆみ)の番だった。
 や、やっぱり夢じゃなかったんだ・・・。
「んと・・・」
 何やら脚のやり場に困っているみたいだ。
 元から履いていた靴下は勿論そのままである。
「うーん、やっぱりこうかな」
 といって胡座をかく聡(さとり)。
「へーえ本当だぁ。男の子ってこの方が楽なんだねぇ」
 しきりに感心している聡(さとり)。
「な、何だよ・・・」
 歩(あゆみ)は何だか気恥ずかしかった。
 何しろこれまで「弟」を持った経験が無い。目の前でほぼ同年代の男が部屋にいる経験が殆ど無かったのだ。
 しかも歩(あゆみ)は現在の見かけはともかく、中身も意識も男のままだから“男同士”みたいなものだ。「男同士」というのは「男と女」とはまた違う“居心地の悪さ”があるのだ。
 そして聡(さとり)にとっては目の前にいるのが制服姿の女子高生というのは意識としては「女同士」だった。
 でも聡(さとり)は“可愛い女の子は好き”だったので何の問題も無かったのだった・・・
「お兄ちゃん・・・」
 聡(さとり)の目つきが怪しくなった。


第60回(2002.10.31.)
 まさにその瞬間に歩(あゆみ)は自分が女の子になっている上に女装させられていることを思い出した!
 パンティ一枚を直接布団に接地させ、「女の子座り」でスカートを広げている歩(あゆみ)。
「な、何だよ・・・」
 お、男同士じゃなくて“男と女”か・・・ってひょっとして“女”って俺のこと?
「お兄ちゃん・・・」
 胡座を崩して寄ってくる聡(さとり)。いや、確かにそれは性別不詳と言ってもいい美少年だったのだが、感覚が敏感になっているのかそれはもう“男”そのものに見えてしまう。
「お兄ちゃん、こうして見て見ると・・・か、可愛い・・・ね」
 ドキイッ!とした。
「ば、馬鹿っ!何を言ってるんだよ!」
 火が付きそうなほどそのほっぺが赤くなっていた。
「実はボク・・・前からお兄ちゃんのことが・・・」
 といって肩に手を置いてくる。
「わっ!・・・や、やめ・・・」
 いきなり布団の上に押し倒される女子高生の制服姿の美少女・歩(あゆみ)。
「きゃああああっ!」
 その長い髪が勢いで四方八方に広がって真っ白なシーツを覆い隠す。首筋の後ろにその感触が襲い、背中にブラジャーの金具が食い込んだ。
 頭の中が真っ白になった。